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ところで、新潟市は近隣の街よりは降雪量が少ないとされる。しかし、降るときはドカンと降るようだ。
「雪が降ってめちゃめちゃ寒いのに、短いスカートを履いて生足が鉄則。バカだなと思いながらも、私たちのなかでストッキングやタイツを履くのはダサかったんです」。
高3の冬、センター試験の日も腰の高さまで積もった。試験は遅れて開始されたそうだ。
試験会場の新潟大学もご覧の通り。
高校卒業後は東京に出る気満々だったイオナさん。都内の私立大学に合格し、晴れて東京人の仲間入りを果たす。
「中学の修学旅行で東京に行って、丸の内の辺りを巡ったときに大感動したんです。帰りの新幹線のなかでは、みんな『やっと家に戻れる』みたいな空気でしたが、私だけ東京が好きすぎて一人で泣いていました(笑)」。
大学では地域創生を専攻。現在は静岡県藤枝市内にカフェを作るというプロジェクトに携わっている。
この店は「のれん街がめっちゃ好き」がゆえに働き始めた。コロナ禍での営業自粛期間は新潟に帰省。Netflixでひたすら韓国ドラマを観ていたそうだ。
「面白かったのは『梨泰院(イテウォン)クラス』。飲食系の話なので、どういうカフェを作ろうかと考えている自分も感情移入しやすいんです」。
飼い猫のふうこは『どうぶつの森』に夢中。
米どころの新潟は日本酒が有名な店が多い。「越後一会 十郎」もイオナさんがオススメする一軒だ。
豊富な日本酒と、それに合う肴が揃う。
やがて「北斎」も営業を再開した。ここはスタッフ同士の仲がいいのが特徴。接客の見本を見せてくれる先輩もいる。
「特に、接客コンテストで優勝したエレナさんがすごい。どんなお客さんにも愛情全開で接します。それを真似していたら常連さんや他の店の店長さんから『表情が変わったね』と言われました」。
右が師と仰ぐエレナさん。
店長の山田浩士さん(32歳)はイオナさんをこう評する。
「接客のセンスが良いですね。ちゃんと自分で考えて行動を起こせる。もちろん知らないこともあるけど、教えると明らかにその後の動きがスマートになります」。
神妙な顔で褒められるイオナさん。
なお、のれん街ではイオナさんの専攻テーマでもある地域のPRも意識している。例えば、「北斎」の店頭に座る案山子は高知の「天空の村・かかしの里」から取り寄せた“実物”。のれん街全体には10体もいる。
東京と高知をつなぐ象徴としての案山子。
あれ、案山子の前に結んであるものは?
「箸袋がおみくじになっています。持ち帰る人、結ぶ人、さまざまですね。16分の1の確率で『超大吉』が出れば、ドリンク1杯サービスです」。
空いた時間を見つけてはせっせと折る。
のれん街のオープニングから働いているイオナさん。中でも「北斎」への愛が尋常ではない。
「ガチで最高だと思います。外で声がけしているときも、心から『ここが一番いいですよ』と言えるんです」。
店長としては大学卒業で失いたくない人材だろう。
外から都電のやさしいメロディホーンが聞こえたタイミングでお会計。最後に読者へのメッセージをお願いしますね。
誤字をぐしゃっと消すのは気にしないタイプでした。
 
【取材協力】
酒肴 北斎 和の仕事馬
住所:東京都豊島区北大塚2-28-2 呑食ちょうちん横丁 大塚のれん街
電話番号:03-5980-7372
https://a687142.gorp.jp
「看板娘という名の愉悦」Vol.126
好きな酒を置いている。食事がことごとく美味しい。雰囲気が良くて落ち着く。行きつけの飲み屋を決める理由はさまざま。しかし、なかには店で働く「看板娘」目当てに通い詰めるパターンもある。もともと、当連載は酒を通して人を探求するドキュメンタリー。店主のセンスも色濃く反映される「看板娘」は、探求対象としてピッタリかもしれない。
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石原たきび=取材・文


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