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新しい時代のベーシックカー

当初は652ccの直列2気筒と、903ccの直列4気筒エンジンだったが、1986年に行われたマイナーチェンジで769ccと999ccの直列4気筒に改められた。以降も随時改良が施され、スバル(当時は富士重工業)のCVTを搭載したモデルなども追加された。
ベーシックカーゆえ、誰もが求めやすい価格にすること、つまりコスト抑制は必定。ジウジアーロはそれを逆手に取ることで、ほかにはない唯一無二の個性を生み出した。
例えばボディはシンプルな平面だけで構成した。フロントウインドウを含めたすべての窓ガラスやボディパネルを真っ平にすることで、ガラスや鉄板の加工コストを抑えるとともに、すべて平面で構成されたそのシルエットは、雑味のない愛嬌や美しさを備え、今でもその存在感は色あせない。
ダッシュボードは「わざわざお金をかけて、安っぽい樹脂製のボードで覆うくらいなら」と左右に一本の棒を渡し、そこに布を張って全面大きなポケットにしてしまった。
シートにしても「コストを抑えたクッション材を詰めたって意味がない」と言わんばかりに、フレームに布を張ったハンモック形状とした。シトロエン「2CV」も使った手法だが、これの座り心地が実にいい。
ハンドル下の左右に走るバーに張られた布が、上のメーター周りの部分と繋がっているので、左右に渡る大きなポケットが備わるようなカタチに。
エンジンなどのレイアウトも、その頃のコンパクトカーで主流になってきたFF(フロントにエンジンを置き前輪を駆動)が採用された。
初期のシートはフロント・リアともハンモック形状だったが、1986年のマイナーチェンジで、リアシートは一般的なシートに変更されている。
FFはパーツが少ないためコストを抑えやすいだけでなく、室内を広く取れるというメリットもあり、全長3380mmでも大人5人が乗って十分移動できる。
1980年にデビューすると瞬く間にベストセラーとなり、結局、大人気だった2代目「500」よりも長い23年間、2003年まで生産された。
1983年には、パートタイム式4WDを搭載し、車高を少し高くしたモデル「4×4」が追加された。
カーデザイナーはただ美しい絵を描くのが仕事ではない。最小限のコストで、最大限の機能を生み出せることを証明したジウジアーロの初代「パンダ」は、コスパが最高な傑作だ! と叫んでも誰も文句は言わないだろう。
 
「中古以上・旧車未満な車図鑑」とは……
“今”を手軽に楽しむのが中古。“昔”を慈しむのが旧車だとしたら、これらの車はちょうどその間。好景気に沸き、グローバル化もまだ先の1980〜’90年代、自動車メーカーは今よりもそれぞれの信念に邁進していた。その頃に作られた車は、今でも立派に使えて、しかも慈しみを覚える名車が数多くあるのだ。上に戻る
籠島康弘=文


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