蒲焼きの力
平野 佳=文
リンボウ先生こと林望さんは、『旬菜膳語』夏の章で「うなぎの魔法」というエッセイを書いておられる。
リンボウ先生は東京のお生まれ故、「江戸風の、蒸して『身をふわふわにしてから、最後にタレで付け焼きに』」というところを読んで、あの香ばしい、しかし上品に脂っけの抜けた香りが鼻の奥で再現され、壁の時計を見上げた。
今晩うなぎ屋さんに行こうかな。甘辛いタレがたっぷり染み込んだ蒲焼きは、ありがたや、これで元気になれる、夏を乗り切れる、という気分を運んでくる。
傑作なことを言ったアメリカの友人がいる。日本人女性をデートに誘うにあたり「うなぎを食べに行こうと誘うのはいやらしい? 僕は好きなんだけど、蒲焼き」と聞いてきた。
精力が付くと言われることから、そういう気遣いをしたのだろうが、思わず破顔一笑した。
うなぎは奈良時代から食されていたそうだ。そして江戸、ロンドンと、林さんならではのうなぎの旅が描かれている夏の章である。
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