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看板娘、登場

「お待たせしました〜」。
店長の渡部 翠さん(29歳)だ。2年半前にアルバイトとして入店。今年5月には社員となり、お酒のセレクトと料理メニュー全般をすべて任されるようになった。
「コロナ前のタイミングで体調不良で店長が辞めちゃって。この店を守らなきゃという思いで引き受けました」。
店構えについても聞いてみると「ここは元ガレージなんです。だから、ちょうど車1台分のスペースになっています」。なるほど。
料理メニューの筆頭にはおばんざい。旬の野菜と優しい出汁を使っている。
迷った末に注文したおばんざいは「ひじきとオクラの梅和え」「人参のゆずこしょう炊き」(ともに520円)。この日は土用の丑だったので「うざく」(680円)も追加。さらに、お通しのおわん(500円)が添えられる。
酒が進まざるを得ない顔ぶれ。
それにしても、どの料理も上品かつ美しい。おわんの宇宙には茄子、南瓜、ししとう、鶏モモの揚げ焼きが収まっていた。夏野菜たっぷりだ。
細やかな仕事ぶりが見て取れる。
器はオーナーが合羽橋で買ってきたものだという。
下段はお酒を引き立てる琉球グラス。
カウンターのなかには、息の合ったアルバイトで「おわん」歴4年のきみ江さん。翠さんはどうですか?
「見ての通り、かわいいでしょ。でも、何気に芯は強いのよ。うちの娘とほぼ同い年だから、悪い虫が付かないように見張らなきゃ(笑)」。
盤石の2人体制でお客さんを迎える。
翠さんの出身地を聞いて驚いた。
「赤坂です。祖父が料亭をやっていまして。1970年代に閉めたみたいですが。赤坂小学校時代は男の子たちと近くの公園でセミ捕りやザリガニ釣りをして遊んでいました」。
セミの抜け殻を家に持ち帰ったところ、母親が激怒。それ以降は公園で「さよなら」をしていたそうだ。
小学校の鎌倉遠足。赤い服でメガネをかけているのが翠さん。
赤坂中学に進学すると技術家庭部に入部。自由な雰囲気だったので、部員たちとクレープやたこ焼きを作っていた。
「この頃から料理が好きになったんです。同時に母親と都内の料理教室に通い始めました。いろんな料理を作りましたが、どら焼きとか生菓子がいちばん楽しかったですね」。


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