店主の石井は「ヴィーガンの方でも食べることができるハンバーガーを作ろうとすると、ソイミートを使っていかに本物のビーフの味に近づけるかという発想になりがちですが、その場合、ソイミートの味で全てのお客様に満足していただけるのかという難しい問題があります。また、せっかくの植物性の旨みをなぜわざわざ肉に寄せなければならないのかという疑問もありました」と明かす。
「肉を食べる人にもヴィーガンの人にも両方においしく食べてもらえるものを提供したいと考えるなら、肉を使わずに野菜の旨みを最大限に活かしたハンバーガーを作るのが正解なのではないかと考えています。VIBESでは地元の畑でとれた新鮮でおいしい野菜を仕入れていますし、素揚げやおひたしなど日本には野菜をおいしく食べる調理法がたくさんあります」
素揚げにした翡翠茄子をベースに、シャドークイーンを使った蒸かし芋、トマト、モロヘイヤのおひたし、ビーツの浅漬け、千切りにした黄色いカボチャ・コリンキーが、豆乳のフォカッチャバンズで挟まれる。ピリッと辛い山椒のソースが全体の味を引き締めるアクセントだ。
ハンバーガーというと欧米の食べ物というイメージがあるが、野菜の旨みを活かしたハンバーガーの場合、応用できる日本料理の技は少なくない。肉の代わりの茄子の素揚げや、ピクルスの代わりのビーツの漬け物など、日本独自の調理法がビーフに負けないハンバーガーを作るうえで武器となる。
「VIBES」に野菜を提供している菜園「自然野菜のら」では、千葉県我孫子市の畑で農薬・除草剤・化学肥料不使用で野菜を育てている。野菜をおいしく食べてもらおうと考えた場合、「地産地消」であるというポイントは外せない。近くで取れた新鮮な野菜を食材として選ぶことは、栄養学的にも、サステナビリティの観点からも理にかなっている。
「自然野菜のら」の中野牧人によれば、翡翠茄子のおいしさは「ふわっとした肉質にあり、その肉質が火を入れた際のトロトロ感につながる」という。適切な水分と養分で大きく育てて、いいタイミングで収穫することが大切だ。「今年の梅雨は雨が多かったので、みずみずしく肉質柔らかでおいしく育っています」
グルメバーガーがブームとなり10年以上が経過したいまも進化が止まらないハンバーガー。ファストフードというイメージは次第に薄れていき、これからはサステナブルな社会を支える新しい国民食のひとつとなっていくのかもしれない。今後も進化していくハンバーガーの世界に要注目だ。
渡邊雄介=文
記事提供:Forbes JAPAN