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高級セダンと4WDのいいとこ取り

しかし1997年に日本で「ハリアー」が、翌1998年にその北米版としてレクサス「RX」が販売されると、日米どちらでも大ヒット。
続いて2000年に登場した同じコンセプトのBMW「X5」(BMWはSAVと呼んでいる)がやはり爆発的に売れると、世界中に「SUVという新しいカテゴリー」が広まっていく。
武骨なアメリカンSUVとは異なる、セダンライクなインテリア。
「ハリアー」も「X5」も、トラックではなく乗用車と同じ作り(モノコック構造)を採用している。いわば背の高い乗用車であり、それまでのアメリカンSUVとは別の乗りものなのだ。
おかげで乗り心地も劇的に良くなった。これには日本人もヨーロッパ人も「SUVでスポーツに出かけるのも、いいよね」ということになったのだろう。
「ハリアー」の場合、日本でもアメリカでも販売していた「ウインダム」(アメリカ名はレクサス「ES」)がベース。「ウインダム」もレクサス「ES」も高級セダンという位置付けだ。
当然「ハリアー」も高級車扱いで、トヨタは「スポーツ・ユーティリティの機動性・機能性を併せもつ、新ジャンルの高級車」と初代「ハリアー」を紹介した。
“高級車”扱いゆえ、当然のように本革シート仕様が用意された。
4WDシステムも、アメリカンSUVやクロカン4WDとは一線を画し、いちいち2WD/4WDを切り替える必要のないフルタイム4WDが採用された。
ラダーフレーム構造を採用する同じトヨタの「ランドクルーザー」ほど悪路走破性は高くないが、最低地上高の高く設定されSUVの“S”を楽しむような場所へならラクラク行ける。
それどころか、「ハリアー」には2WDモデルさえ用意された。もはや「年に数回行くかどうかのレジャーより、普段の街乗りの使い勝手や燃費が重要ですよね」と言わんばかりだ。
運転席での感覚も、この車の背が高いことを忘れてしまいそうになるほど、セダンと変わらない。
こちらも北米版として販売されていたレクサス「RX」。これくらいの“悪路”なら十分進んでいける。
そのあとに登場するSUVは、悪路走破性に特化したモデルでない限り、「ハリアー」のようにモノコック構造を採用している。悪路を走るために生まれた「ランドローバー」に、乗用車の要素を加えて世界中でヒットした「レンジローバー」ですら、現在では「ハリアー」と同じモノコック構造を採用する。
つまり、それだけ多くの人が悪路より街中を重視したってことだ。
そんなエポックメイキングな「ハリアー」だったが、実は2005年に国内でもレクサスブランドが展開されたことで、その役割をレクサス「RX」に一本化し、「ハリアー」は2代目で終了する予定だった。何しろ“高級車”で言えば、上にレクサスができてしまったのだから。
ところがドル箱「ハリアー」を失うことになるトヨタ系ディーラーが猛反発。急遽アメリカで販売されていた「RAV4」をベースに2013年、3代目としてデビューする。
この判断が当たり、3代目は順調に売れ、2020年6月に4代目となる現行型が登場。その売れ行きは3代目をも上回る勢いで、約1カ月で月間販売目標の3100台を大きく上回る約4万5000台を受注したほど。
クーペのような流麗なボディラインを備え、大ヒット中の4代目。
前後ドライブレコーダーや、障子越しのような柔らかい陽射しに変えてくれる調光ガラスを用いたサンルーフなど、レクサス「RX」とはまた違う、メイド・イン・ジャパンらしい快適性能で乗り手をもてなす。
「ハリアー」は4代目もまたひとつ、新しい“高級車”という概念を生み出そうとしているのだ。
「人気SUVの初代の魅惑」とは……
今はまさにSUV興隆の時。戦後、軍用車をベースに開発した車をルーツに持つSUVは多種多様な進化を遂げ、今や世界中で愛されている。そして、どのSUVにも当然、初代がある。そこには当代が持たない不動の魅力があり、根強いファンがいる。彼らを夢中にさせる“人気SUVの初代の魅惑”を探ろう。上に戻る
籠島康弘=文


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