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2020.05.25

時計

「散財王に俺はなる」が口癖の時計編集者が今“復刻モノが欲しい”と思うワケ

「豊作、復刻時計」とは……
「復刻時計隆盛の時代が訪れようとしている」。
そう語るのは、オーシャンズでも度々登場している「時計界の散財王に、俺はなる」が口癖の編集者、安藤夏樹さん。
[筆者紹介]
エディター 安藤夏樹さん
1975年、愛知県生まれ。ラグジュアリー雑誌の編集を務めたのち、現在はフリーの編集、ライターとして活躍。時計だけでなく木彫り熊収集家など、幅広い見識と強い探究心を持つ。
それはいったいどういうことなのか?
今回は彼に、今大豊作な復刻時計の魅力を教えてもらった。
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長きにわたり古時計を蒐集し、現在は毎年発表される最新腕時計をチェックすることが仕事となっている僕にとって、復刻時計というのは、正直あまり食指の動かない存在だった。
理由は非常に簡単で、オリジナルを知る身としては心揺さぶられるものがほとんどなかったからである。
 

デニムやスニーカーの復刻版は愛せるのに、復刻時計はなぜか愛することができなかった

レプリカジーンズも、レプリカスニーカーも、細かな仕上げやシルエットを見ると、オリジナルとは異なる点が多い。しかし、ジーンズにおける色落ちや、スニーカーにおける履き心地など、重要なポイントをクリアしているプロダクトに関しては、オリジナルとは別物として十分に存在意義を感じる。
現代的なシルエットになって、気兼ねなくガンガンはけるレプリカを選ぶことは、骨董化し、常に気を使いながら接しなければならないヴィンテージのデニムやスニーカーをびくびく使うことより、むしろかっこいいと思う。
ところが、こと腕時計となるとそうもいかなかった。
「かつての復刻時計は、明らかに目先の売り上げを作るためだけの商品であることが多かった」。
理由のひとつは、復刻時計にブランドの熱量を感じなかったからかもしれない。
ブランドを代表する歴史的モデルの名前と形を借り、数量限定で発売すれば確実に売れる。その事実にあぐらをかき、ほかの新作ほど力を入れずに作られる傾向があったように思うのだ。
こうした復刻時計では、新たにムーブメントを開発することはなく、既存のものをそのまま利用するのが常であった。もちろん、オリジナルモデルと同じムーブメントはすでに存在しないから、「近しいもの」を選ぶことになる。それ故、厚さやクロノグラフの位置が、使うムーブメントの事情によって制限され微妙にバランスが崩れる。
結果、オリジナルとは似て非なる残念な時計が世に生み出された。「どこに目をつけてらっしゃる」と言いたくなるようなクロノグラフを、これまでに何度見てきたことか。
もうひとつ加えると、デザイナーの過度に強い自我も、ときに残念な復刻版の理由となりうる。復刻モデルなのにも関わらず、同じものは作りたくないという思いが前面に出過ぎると、結果として中途半端なものができあがる。変えることが目的となってしまった時計に、ユーザーのニーズは存在しない。変えるにしても、絶妙な塩加減が求められるのだ。
こうして生まれた “劣化版” (あえて言っちゃう!)の復刻時計は、一時的には話題を呼んでも歴史には残らない。結局は、「やっぱりオリジナルがいいよね」と、原点モデルの偉大さをより鮮明にするだけの存在となってしまうのである。


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