今のほうが人間としてのバランスはいいですね
「仕事は多岐にわたります。例えば焙煎したコーヒーの卸先を開拓することも仕事。とはいえ単に数が増えればいいとは思っていません。『ザ・ライジング・サン・コーヒー』の味をしっかり再現してもらいたいので、ドリップの仕方なども伝えながら、ゆっくりと広げていきたいですね」。
最近では北海道・広尾町の「ベイ・ラウンジ・コーヒー」、伊豆の「アイリー・コーヒー・アンド・シー」に卸すことが決まった。どちらも海辺の町にあるショップで、オーナーがサーファーという、サーフィンつながりで生まれた関係だ。
「徐々に復調してきたので海に行く時間も増えました。今はパドルアウトをして海に浮かぶだけでありがたみを感じます。それにサーフィンをしていたから馴染み深い千葉・九十九里に焙煎所を設けることになったし、“海上がりに飲みたくなるコーヒー”も生まれました。僕にとって海やサーフィンは大きい存在。これからはビーチサイドの盛り上がりにひと役買ったり、コーヒーで恩返しできればいいなと思っています」。
まるで我が子のように、仲間と大切にブランドを育てている坂口さん。先だけを見つめる表情から曇りは感じられないが、改めて、人生から俳優のキャリアとサーフィンを失う可能性があった大病と向き合い手にしたものとは、何か?
「人間らしい生活ですかね。俳優として活躍できていた時代の生活は、ドラマを撮って、撮影がない日にはコマーシャルを入れて、たまに休みができたら海に行って自分を保つという極端なものでした。今は仕事と海にプラスして、子供と遊んだり、知人と酒を飲むといった時間がある。いろんな要素が生活にあるから視野も広がり、今のほうが人間としてのバランスはいいですね」。
仕事と家庭と趣味を同一線上で楽しんでいる。ごく自然と発せられたそうした言葉からは、経営者と焙煎士、父親、ひとりの男としての務めを、少しの気負いもなくこなす坂口さんの姿が浮かんだ。
鈴木泰之=写真(静物・取材) 三浦安間、山本雄生=写真(取材) 小山内 隆=文