近代的なホテルもいいが、代々続く伝統のおもてなしが受けられる老舗旅館に目を向けてみるのもいい。
1874年に創業し、登録有形文化財の宿「おちあいろう」。この宿を愛した川端康成や北原白秋などの名だたる文人たちみたいに、趣ある宿でおこもりも悪くない。そんな贅沢も、大人ですから。
いい大人として、老舗旅館を訪れたい
人生で初めて旅館に泊まったのは3歳頃だ。父母との初めての旅だった。旅館に着いた途端、私は番頭さんの立つ玄関先に走り寄り、「子供用お寝間着はありますか」と言ったのだった。
自分でも覚えているが、その後繰り返し父母から聞かされた「こまっしゃくれた子供」であった私の逸話として、再記憶されたものなのかもしれない。
宿泊の夜、ひとしきりの雨と雷があった。怖かった私は、丁寧に並べて敷かれた2枚重ねの敷き布団の間に滑り込んだ。
早生まれで小さな子供だったので、布団の間にサンドイッチにされていても誰も気付かず、「子供が行方不明」のひと騒動があったらしいのだが、私の記憶にあるのは、温かな色の行灯が灯る枕元と、笑う父母の顔、そして優しそうな仲居さんの姿のスナップショットだけだ。
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