失意のなか、支えてくれた仲間の存在
それでもマシューは諦めなかった。チームから離れ、ひとり自宅のガレージで黙々とトレーニングを始めたのだ。
「最初の日は、壁を前にラジオを聴きながらローラー台に乗ったんだけど、すごい暗い気持ちになってしまって。20分で嫌になってしまった」。
そこで取り入れたのが屋内サイクリングアプリの「Zwift(ズイフト)」。アマ・プロを問わずに世界中からレーサーが集まり、バーチャルコースでレースをしたり、チームを組んでライディングができる。オンラインゲーム的要素も強い。
「このアプリのおかげですごく気分が変わって、1時間でも2時間でも走れるようになった。1日2回、4週間トレーニングをすることができました」。
とはいえ、レースに出れる確証はなかった。
「モチベーションがすごく高まった翌日には、治るかもわからないのに暗いガレージで僕は何をやっているんだろうと落ち込む日もあって。ガレージで自転車を漕ぎながら、今年は治療に専念して、また来年挑戦すればいいかと思う日も多かったですね」。
その気持ちを奮い立たせたのは「大好きな『パリ~ルーベ』を走りたい」という強い思いだった。
「励ましてくれるトレーナーや、相談に乗ってくれた妻の存在も、もう1回チャレンジしようという思いを後押ししてくれました」。
大会1週間前、マシューは初めて、チームのスポーツディレクターにレースへの出場意思を伝えた。テストライドでは骨折した右腕の調子も良く、「いける!」という手応えもあった。
「チームドクターやコーチは『どうだろう?』という反応でしたが、経験にもなるし、テスト的に走ってみたらということになったんです」。
周囲からの期待はまったくなかった。マシュー自身も「走れることが嬉しかったし、コースをエンジョイしよう」という気持ちで臨んだレースだった。
だが、そのリラックスした状態が結果的には勝利へとつながった。トップ集団から一度は遅れたものの、追いついたラスト10km。
「ところが、ここからもう1度、チャージしていくぞ!となったときに周りにチームメイトがいなかったんです。もしあそこにアシストすべき人がいたら、いつものように僕はアシスト役に回っていたでしょう」。
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