地元の田んぼに還元する「サステイナブル」な酒造り
──酒造りにかけるポリシーを率直に教えてもらえますか?造り手として当たり前なんですけど、「美味しいものを造る」ということには徹底的にこだわりたいと思っています。特にスターシリーズはデザイン的に奇抜ですが、だからこそ中身が伴わないというのは絶対に避けたい。なので、とにかくお酒の美味しさには徹底的にこだわっています。
そして、阿部酒造のお酒は甘いものからドライなものまでありますが、すべてに共通しているのは「酸の有無」を考えて酒造りをしていることです。うちの蔵は酸味があるお酒が多いですが、一方で、酸がないほうが美味しいお酒もあります。そういう場合は無理に酸味を演出する造りをせず、酸がない状態でバランスが良いと感じる酒に着地するよう努めています。
「酸にフォーカスした酒造り」というのはうちだけのオリジナリティだと思います。
──最後に、今後の目標は?今は「地元のものを使いたい」という思いが強くなってきています。新潟県は米どころなので、お酒はすべて地元のお米で造りたいのですが、実際は農家さんも減り、耕作放棄地も増えています。そんな柏崎市の現状を変えていきたいと思っています。
うちには「圃場別シリーズ」という日本酒もあるのですが、これは地域の田んぼ(圃場)のお米だけで造ったシリーズになっています。自分たちのお酒が全国にもっと広がって、お酒に興味を持ってくれた飲み手が柏崎の田んぼを見に来てくれたら嬉しいな、と思います。
圃場別シリーズは、一本売れるごととに一定額が地域の圃場に寄付される仕組みです。売り上げを農家さんにバックすることで、次の米作りに活かしてほしい。ふるさと納税みたいなものですよ。例えば、東京暮らしだと田んぼは身近じゃないかもしれません。でも、そんな都会の人たちでも、このお酒を飲むことで地域を支援できたなら、それって相互にハッピーですよね。
阿部酒造株式会社●1804年創業、新潟県中越エリアの柏崎市に構える酒蔵。米山山系、黒姫山系の軟水を用いた、やわらかな酒質が特徴。親から子に酒造りの方法を直接伝授しているため、今も酒造りの基本は創業当時のまま。現在は次期6代目蔵元、阿部裕太さんが製造責任者を務める。
www.abeshuzo.com 横尾有紀=取材・文