目指したのはワインのような日本酒
──その頃にはご自身でも日本酒が好きになっていたんですか?そうですね。でも、僕はワインばかり飲んでました。当時を思い出すと本当に恥ずかしいのですが、ワイン=おしゃれだと思って、ワイングラスを傾けながら女の子と呑んでいました(笑)。そして、それがカッコいいと思っていたんですよね(笑)。でも、ワインを飲んでいたのが結果的には良かったんです。
──というと?新潟の日本酒と言えば「淡麗辛口」が代表的ですが、そのどれを飲んでも“酸”がなかったんですよ。その頃の常識では、まだ日本酒に酸は厳禁だったので当たり前ですけどね。でも、僕はワインばかり飲んでいたせいで、日本酒の味に物足りなさを感じてしまったんです。
──それで生まれたのがスターシリーズなんですね。スターシリーズのなかでも、「レグルス」はわかりやすく酸があるので、既存の清酒からはかなり逸脱しています。日本酒を飲まないけど「レグルス」は好き、という方も多い。僕はそういった日本酒に慣れ親しんでいない人たちに日本酒を知ってほしくてスターシリーズを造っています。
──当時から考えてみれば、かなり大胆な挑戦ですよね。最初蔵に戻ったときは「淡麗辛口」とは真逆をいこうと思っていましたからね。実家の酒蔵に戻ったのは20代半ばの頃だったんですが、当時はオラオラしてたんですよ(笑)。「淡麗辛口なんてクソくらえー!」って感じで、甘口で飲みやすいお酒造りを目指していました。
シンガポールでは「ワイン枠」で勝負している
──阿部さんは「あべ」というブランドも造られていますが、スターシリーズはどう違うのでしょう?造りがまったく違います。「あべ」は飲食店を通してお客様に知ってもらいたいと思っていたので、 純米大吟醸や吟醸など、いわゆる「特定名称酒」を多く造って、精米歩合は何パーセントで、お米はどこどこの何々で……と、まさに日本酒好きな人に楽しんでもらえたらいいなと思って造りました。
一方で、日本酒はそういった情報量が多いので、知らない人からすると敷居が高い。だから、難しいことを抜きに“ただただ美味しい酒”も造りたかったんです。そこで立ち上げたのがスターシリーズというサブブランド。味を純粋に楽しんでもらうため、あえて精米歩合などは非公開にしています。
──ラベルもすごく洒落ていますよね。このシリーズのラベルは、日本酒の原料となった地元・柏崎の田んぼの風景を使っています。スターシリーズはすべて一等星の名前がついていて、星にはそれぞれいちばんきれいに見える時期があるのですが、その時期の田んぼの表情をラベルにしています。横文字で星の名前にしようと思ったのも、気軽に手に取ってもらいやすいようにって感じですね。何よりも今までの日本酒のイメージをとにかく変えたくて、日本酒には絶対ないだろう名前にしてます。
ボトルも一升瓶はなしにして、ワインに近い四合瓶(720ml)のみの展開なんですよ。風味が落ちないうちに飲みきってほしいですしね。普段は日本酒を飲まないような人にジャケ買いとかしてもらったらうれしいですね。
──海外でも人気が出そうですね。海外展開も考えています。すでにシンガポールには卸していて、そこでは日本酒を意味する「SAKE」ではなく、ワインのラインナップのなかのひとつ「ライスワイン」として販売してもらってます。
「SAKE」として出してもいいのですが、世界のワインと戦いたいと思っていて、味に関しても高評価をいただいています。食事も和食よりも洋食のほうが合います。
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