エルメスの製品は使い込んで初めてわかる魅力がある。傷や経年変化によって愛着が増す製品が存在する。その最たるものが、定番のブレスレット「シェーヌ・ダンクル」だ。
デザインを手掛けたのは、のちに4代目社長となるロベール・デュマで、誕生したのは1938年。ノルマンディの海辺でバカンスを楽しんでいたときに、船と錨をつなぐ鎖を見て、ブレスレットにすることを思いついたという。
また冒頭でも述べたように、シェーヌ・ダンクルは特別な日に身に着けるのではなく、ガンガン日常使いするのが正解。30年間ほぼ毎日のように着けているという大坪洋介さん(日本が誇るデニム博士)のそれは、使い込まれたものならではの独特のオーラを放っていた。思い出の傷がいくつも刻まれた頃に、息子へのファースト・エルメスとしてプレゼントする……なんていうのもアリかもしれない。
’51〜’78年で社長を務めたロベールは、スカーフの「カレ」を開発したり、フレグランスをスタートしたりして会社の業績を飛躍的に伸ばしたエルメスの“中興の祖”だ。それまでのエルメスのジュエリーの主なインスピレーション源は、馬具に用いられるバックルをはじめとした乗馬の世界であった。
しかし今ではエルメスを語るうえで欠かせない「ビーチ、リゾート」のイメージは、このシェーヌ・ダンクルが嚆矢だと言っても過言ではない。海を愛する我々にピッタリすぎる、ゆえんも併せ持っているのだ。
清水健吾=写真 菊池陽之介=スタイリング 増田海治郎=文 大関祐詞=編集