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次に目指すステージは、ワインさながらの「美味しい熟成酒」

──統計上、日本酒の売上は年々下がっていますが、この状況をどうご覧になっていますか?
日本酒はワインと違って、原料依存ではなく、酵母による影響がいちばん大きいんです。現在はその酵母の開発が進み、きれいで安定した美味しい日本酒が確実に造れるようになりました。しかし裏を返せば、誰でも、人気の蔵の模倣やトレンドを意識した日本酒が容易に造れるようになったんです。
つまり、勝利の方程式があるゆえに、差別化ができなくなってきている。もっと言えば個性がないんですよね。最初から90点をとる蔵ばかりだけど、光るものはない。後輩たちにはもっと冒険してほしいと思います。
──では今後、薄井さんが目指す場所は?
シンプルに、世界のお酒と肩を並べる日本酒造りをしたいですね。日本酒は「和食」という文化に比べて、基盤が整っていないので、世界中の人が飲んでも楽しめるような工夫が必要です。
仙禽は11カ国に輸出をしていますが、それに伴い、ラベル表記にQRコードを採用し、適正なグラスや温度、料理との相性などの情報を詳細に明記するなど、工夫しています。
ラベルデザインも一新しました。仙禽とは、仙人に仕える鳥「鶴」のことなので、鶴のコーポレートイメージを採用しています。パッと見て鶴に見えるのではなく、世界中のどの民族が見ても鶴とわかるデザインにしたかった。そうやって、世界を見据えたブランディングも心がけています。
仙禽の名前の由来である「鶴」をイメージした新しいロゴ。
それと、日本酒における「美しい熟成酒」を造りたいとも思っています。ワインでは「熟成」という価値が当たり前に認められていますが、その点、日本酒では意識がまだまだ低い。
日本酒は、醸造の過程で温度をマイナス5度まで下げて造れば酸化しにくく、透明できれいな熟成酒になる。今後は、時間が織り成す複雑味と個性を帯びた日本酒を世界中で嗜んでもらいたいですね。
 
株式会社せんきん●1806年、栃木県さくら市(旧氏家町)に創業。ブランドコンセプトは「古くて新しいものづくり」。伝統的製法を現代にフィードバックし、「木桶」を用いて伝統的な製法である「生酛造り」を再現。さらに、江戸時代の手法である「酵母無添加」のスタイルは「EDOスタイル」として超自然派な日本酒造りを行う。原料米は完全な「ドメーヌ化」を行い、すべての原料は蔵に流れる仕込み水と同じ水脈上にある田んぼに限定した米の作付けを行う。
http://senkin.co.jp
 
齋藤久平=取材・文


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