ルイ・ヴィトンの色に対する強烈なこだわり
安藤 ルイ・ヴィトンは複雑機構を「時を楽しむための装置」として使っている感じがある。これってラグジュアリーブランドの時計には割とよく見られる特徴だと思います。
広田 表示の面白さに加え、ルイ・ヴィトンの時計の特徴というと、やっぱり色でしょう!
安藤 確かにキレイです。2016年に「エスカル ワールドタイム」が出たときは、僕もどうやったら買えるか、真面目に試算しました。手持ちの時計を売ったらいくらになるかとか……(笑)。そうこうしているうちに瞬殺で売り切れちゃったけど。このモデルの文字盤はハンドペインティングだったんですよね。
広田 そう。使われている塗料は38色という。
安藤 塗料を塗り重ねてるから、微妙に色が盛り上がってるんですよね。立体感があっていいんだよなぁ……今でも欲しい!
広田 「エスカル ワールドタイム」をひっくり返してみると、裏に「ラ・ファブリク・デュ・タン・ルイ・ヴィトン」と書いてあるんですが、もともとこれ、腕利きの時計師たちが作った「ファブリク・デュ・タン」っていう会社を、ルイ・ヴィトンが傘下に収めたものなんですよね。ミッシェル・ナバスとエンリコ・バルバシーニっていう2人のおっちゃんが興したこの工房を吸収したことが、ルイ・ヴィトンの時計を大きく変えました。
安藤 スピン・タイムの設計もここですよね。
広田 ですね。ルイ・ヴィトンが「ミニッツリピーター」のような超複雑時計を自社で作れるのもこの存在があるから。もともと超複雑時計の製造で定評があった工房なんです。そして、実は文字盤の作り込みもすっごくうまいんですよ。
安藤 エスカルの発色は確かに抜群にいい。
広田 基本的に時計の文字盤って、色を塗ったら最後に表面保護のために透明塗料でコーティングするんです。だけど、ファンデーションを塗るのと同じで、どうしても下地の発色は微妙にくすんでしまうんですよね。エスカルでいうと、せっかくの細密画の美しさが弱まってしまう。そこで、ファブリク・デュ・タンはその表面に吹き付けるクリア塗料を省いちゃったんです。
安藤 でも、それだと紫外線で劣化しませんか?
広田 ふふふ、それが従来からの時計業界の発想(笑)。彼らは「現代の高品質な塗料なら大丈夫」ってすんなりやめちゃった。で、すっぴんで、いろんな色を使って、超カラフルな表現ができるようになったんです。
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