オーラリーの服にはクセがない。しかし、一度袖を通すとなぜかクセになる。僕らと同世代のデザイナーである岩井良太氏の言葉のなかから、このブランドが支持される理由を探ってみた。それはおそらく2つ。オリジナルで作る上質な素材と、着たときに美しく決まるシルエットだ。
オーラリーとは?
世界中から原料を厳選し、高い技術を持つ日本の工場でオリジナルの素材を製作。その「本当に良いと思える素材」を用いて、着心地の良い、美しいシルエットのベーシックウェアを追求している。メンズ、ウィメンズともに展開。現在は日本を含め世界13カ国で製品を販売。着実にファンを増やし続けている。
「味付けするのか、しないのか。服作りは料理に似ています」
どんな人がどんな思いで作っているのか、ずっと気になっていたブランドがある。それがオーラリーだ。デザイナーの岩井良太氏はノリコイケなどを経て、2015年春夏シーズンに自身のブランドをスタートした。
「専門学校在学中にはアルバイトとして、その後は会社員としてずっと服作りに携わってきました。働き出した当初は自分のブランドを作りたいとか、店を持ちたいとか、ショーをやりたいとか、具体的なことはいっさい考えていませんでした。目の前の仕事で精一杯だったので(笑)」。
デザイナーにはいろんな気質の人間がいる。自己顕示欲の強い人。逆にシャイな人。あるいは大らかでこだわりの少ない人。デザイナーの個性はとりもなおさず服の個性であり、個性に是も非もない。岩井氏の第一印象はひと言で言えばノーマル。むしろ服飾業界には珍しい朴訥とした人柄である。
「オーラリーを始めるときも、正直“こういう服を作りたい”というこだわりがあったわけではないんです。ただ、数多くのブランドがあるなかで自分の強みとは何かと考えたとき、それはやはり“素材”だと思いました」。
キャリアのなかで素材に対する豊富な知識を培ってきた岩井氏。何より、理屈抜きで素材そのものが好きだった。裏を返せばそれしか武器がなかった、とも言える。むろんその武器を磨くことに関しては、やはり他と一線を画するこだわりが備わっているのだが。
「僕の場合、服作りは素材作りから始まります。原料の糸を選ぶところから織り方や編み方、加工まで。デザインする時間よりも素材を作っている時間のほうが圧倒的に長いんですよ」。
例えば珍しいカシミヤの原毛があるとしよう。ではその原毛をどういう糸に紡ぐのか。そしてその糸をジャケットの生地として織るのか、あるいはニットとして編むのか。そんな段階から考えることもしばしばである。
「スタートしたときから素材はすべてオリジナル。僕のリクエストに応えてくれる紡績会社、機屋さん、ニッター(※1)の協力がなければ、オーラリーの服は成り立ちません。素材作りの段階でどんな服に仕立てるかはある程度想定していますが、想像と違う生地に仕上がることもある。そんなときには生地を手に取り、身体に巻きつけたりして改めて考え、デザインを引き直すんです」。
つまり岩井氏は常に“素材の声を聞く”デザイナーなのだ。
「もしかしたら料理に近いのかもしれません。どんな調理法でどんな味付けをするのか。あるいは味付けせずに素材の味だけで勝負するのか。そう考えると僕が作っているのは、あまり手を加えない料理でしょうか(笑)」。
’19年秋冬からはパリコレクションにも参加。ブランドは一歩ずつ、着実に成長を重ねている。自身、デザイナーとしてはどのように変化しているのか。
「店を作ったりショー形式で服を見せることは、ブランドの世界観を伝えるということ。それを考えるのはとても楽しいですし、自分自身の世界も確実に広がっていると思います。でも服作りに関しては何も変わりません。一つひとつの服に力を注いできた結果、今がある。これからも目の前のことを精一杯やり続けていきたいですね」。
※1 機屋さん、ニッター
それぞれ、糸を織物に加工する業者と、ニット類を作る編み立て業者のこと。メンズアイテムでいえば前者はジャケットやシャツの生地を、後者はセーターやTシャツの生地を製造する。
加瀬友重=編集・文