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両親から受けた「一歩引いて見守る」姿勢

大迫選手が本格的に陸上を始めたのは中学生のとき。それまでやっていた野球よりも走ることが楽しくなったのがきっかけだった。
「近所で行われるマラソン大会などに出ているうちに走るのが楽しくなってしまったんです。ただ、僕の中学校には陸上部がありませんでした」。
普通ならそこで諦めてしまいそうだが、大迫選手は他校の練習に参加したり、クラブチームに入るなど、ものすごい勢いで競技へとのめり込んでいった。
「両親が学校に、試合へ出られるよう交渉をしてくれたり、クラブチームも一緒に探してくれて片道1時間くらいかかる練習場所まで送り迎えをしてくれました」。
中学2年生になり、母校に陸上部が発足。それからは陸上漬けの毎日だった。練習を休むことを嫌い、家族で出かけても練習時間に間に合うように一人で先に帰宅するほど、走ることに夢中だった。

「両親は自分の好きなことをやったらいいというスタンスで、特に競技について何かを言われたことはありません。だからと言って関心がないわけじゃないと思うんです。結果も気になっただろうし、今でも試合は見にきてくれますから」。
スポーツに限らず、習い事でも、勉強でも、ついあれこれとアドバイスをしたくなるのが親心。けれども、大迫家の場合は、一歩引いて見守るというのが両親のスタイルだった。
「言いたくなる気持ちはわかりますが、それって子供にとってはプレッシャーだったりするんです。子供のタイムが伸びないなどの相談をされる場合もありますが、そういうときって子供自身も悩んでいるはずです。
子供が自分から相談をしてきたのなら別ですが、親はどんな成績でも関係ないくらいの気持ちで見守ってあげてほしい。僕は親にプレッシャーをかけられることがなかったから、走ることを楽しめたし、だからこそ今も走る楽しさや喜びを感じることができるんだと思っています」。
それでもあえて両親から受けたアドバイスを挙げるとしたら、それは「自分のことは自分で決めなさい」ということだろう。
複数の高校から推薦の話をもらったときにも、自ら選択し、各学校へ連絡をしたという著書に書かれているエピソードは強烈だ。だが、「子供の頃から自分で選んできたことが、自分を強くしてきた」と大迫選手は語る。

「ちゃんと自分で考えて、自分で決めて、自分で責任を取ることはすごく大事だと思っています。今までいろいろな選手を見てきましたが、親が何でも決めている選手って、結果的に周りのせいにするんですよね。
学生時代、常に僕よりも速い選手はいました。それが今、なぜここまで差がついたかというと、ひとつには、僕は自分で決断をしてきたからです。
昔、僕と同じくらいの実力の選手がいたのですが、その選手は何かを決断するときに必ず誰かに判断を仰いでいたんですね。で、失敗をすると人のせいにする。『あの人が言ったから、やったのに』って。そうやって周りのせいにすると、本人は何も進歩しません。
これが自分で決めたことなら、誰のせいにもできないし、たとえ失敗しても、じゃあ次に同じ失敗をしないためにはどうしたらいいのかと考えるようになる。そういう経験が積み重なって大きな差につながったと僕は思っています。そのためにはどうしたらいいかというと、やっぱり親は一歩引いて、子供に任せるべきなんです」。
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2人の娘を幸せにすることと、走るモチベーション

競技人生のなかで学んできたさまざまな経験は、今、自身の子育てにも反映されている。現在長女は小学1年生。「下の子はまだ小さいのでなんとも言えませんが、上の子は僕に性格が似てますね」という長女には体操、水泳、ピアノなど、やりたいと言ったことは基本的にはすべてやらせているという。

「別に何を選んでもいいんですが、親としては子供の選択肢をなるべく広げてあげることは大事だと思っています」。
走るということを突き詰めてきた大迫選手。だからこそ選択肢は広げつつも、それぞれに向き合う子供の姿勢は大事にしている。
「一度ピアノが難しいからやめたい、つまらないと言い出したことがあったんです。だけど、今頑張って、それを乗り越えたら、もっと楽しくなるかもしれないじゃないですか。
だから娘には、もしここを乗り越えて、それでもつまらなかったら辞めたらいいじゃんって話しました。きついところで辞めるのではなく、きついところが終わってから、もう1度判断しなさいということは多いですね。
娘は『パパは楽しく走ってるんでしょ?』って言うんですよ。それで、『本当にいつも楽しいと思っていると思う?』って聞いたら、『違うの?』って言うから、『違うよ』って言いました(笑)」。

子供はときに気まぐれであったり、感情で動いたりするもの。そんなときでも大迫選手は、大人と話すように常にフラットに説明をする。
「でも『理解できた?』って聞くと『わかんない!』って言ってますよ(笑)。だけど、それでいいと思うんですよ、実際。今はわからなくても、親として伝えることが大切。もしかしたら精神年齢が似ているのかもしれないけど(笑)、あえて子供の目線に落として話す必要もないかなって」。
試合が決まり、合宿などに入れば、家族と離れる時間は長くなる。だからこそ家族と一緒の時間はしっかりと子供と向き合っているのだろう、と思いきや、「いや……僕が自由だからな……」と苦笑いをした。
「もちろん、ある程度のことはやったほうがいいかもしれないですけど、僕は中途半端に何かをするというのが苦手で……。だから子育てに意識がいかないほど、競技に集中していることも多いんですね。
例えば子供を抱っこするときでも、もしこれで筋を痛めたらどうしようと考えてしまったり(笑)。僕は強くなるためには余計なものをそぎ落としていくことが重要だと思っているんです。家族との時間、友達と遊びに行くこと……そういった競技に必要ないものは我慢して削って、競技に向き合う。
それを積み重ねたからこそ、スタートラインに立ったときに、自分自身に対して自信が持てるし、達成感がある。本にも書きましたが、妥協なくスタートラインに立てたことは、僕にとってはひとつの勝利なんです。そうやって普段一緒にいられないからこそ、競技を頑張って、子供たちにいい姿を見せることが、僕が娘たちに返せることだと思っているし、走るモチベーションのひとつにもなっています」。
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