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「しかも、ちゃんとした店を開こうと思えば4000~5000万円もかかるから、借金返済のため店に縛られてしまう。自分のこれからを考えたときに、30代のいちばんいい10年間をレストランという業態に注いでいいのか。それは違うかなと思ったんです」と田村氏は話す。
そんな話を人にしているうちに自分の考えが整理されていき、2018年2月か3月ごろにケーキの試作を始めていた。利益率が低いぜいたくなケーキをあえて売り出したのは、このケーキを定番のニューヨークチーズケーキや、今年流行中のバスクチーズケーキなどと並んで、「東京チーズケーキ」と、地名を冠して呼ばれる代表的な存在にしたい、という野望があるからだ。

チーズケーキは国を選ばない普遍性がある

「チーズケーキやシュークリームなど、昔からあるお菓子はスタンダードとしてロングセラーになる可能性がある。だけど今のところ、人気のチーズケーキは全部海外から持ってきたものばかり。日本から世界に『東京ってすごいんだよ』と発信したい」と田村氏。
ケーキはもともと欧米から来たものであり、日本は海外から学んできた歴史がある。しかし、やはり欧米からもたらされたパンでは、すでに独自の菓子パン・総菜パンの文化を育てて海外のパン職人が技術を学び導入する存在になっている。欧米からも品質の高さが評価されるケーキでも、そろそろ日本発で外国に受け入れられるジャンルが登場してもおかしくない。
ミスターチーズケーキの箱には、田村氏の名前が入っている(撮影:今 祥雄)
田村氏は、パリやニューヨークで期間限定のポップアップショップを開いて話題を集めた後、アジア圏で本格販売をしたいと考えている。なぜなら「チーズケーキは国を選ばないお菓子だから。そうしてミスターチーズケーキを圧倒的なブランド力を持つ商品に育てた後、ほかの分野へも手を伸ばしていきたい」と語る。
また、今後は都内にアンテナショップを開き、リアルの世界でも知名度を上げていきたいと考えている。
しかし、田村氏のビジョンは、ケーキだけに限定されていない。独立前の2017年9月、同世代のマーケター、農業科学者と3人で「ドット・サイエンス」という会社を立ち上げ、高付加価値食品のプロデュースなどのビジネスを行っている。その商品は例えば、無農薬のエディブルフラワーでフレーバーをつけたアイスクリームや、アクア・パッツァの材料としても使えるハーブとガーリックの香りをつけた干物などである。


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