日本の三菱 デリカD:5と欧州のミニバン。走破性とデザイン、両者互いに方向性は違えど礎があり、居住性を優先させる一般的イメージのミニバンとは明らかに異なる。
「家族のために、仕方なくミニバン」ではなく、せっかくの楽しい車選び、もっとわくわくしながら、ポジティブに選んでみませんか?
デザインは変わっても、悪路走破性は変わらない
三菱 デリカ D:5
2007年1月に登場したデリカ D:5が約12年の時を経てマイナーチェンジ。特に衝撃を与えたのはフロントフェイスデザインの変貌ぶりだ。3、4代目はランプバーが付けられるなど、アウトドア嗜好がとりわけ強かったが、5代目はどこか控えめな印象だった。
そこから今度はポリゴンのような鋭く威圧的な顔立ちになったのである。過去のファンがどう捉えるか!? 改めて注目を集める存在になったことは間違いない。
悪路走破性を求め続けているデリカのコンセプトは変わらない。地を這うような末広がりのボディを持つミニバンが多いなか、デリカはマイナーチェンジを経ても、障害物に接触しないようアプローチアングルを23度確保。タイヤのグリップ力を最大限に引き出す4WDシステムとともに、どこへでも連れていってくれる。もちろん、室内は広々。
“遊べるミニバン”の代名詞
50年続く“デリカ = クロスカントリーミニバン”の歴史
デリカは荷物の運搬が主な役目だったワンボックスカーのあり方、使われ方を塗り替えた存在だ。居住性、走行性、安全性、快適性、そして静粛性。
代が替わるごとに段々と加えられていった現代のデリカを形づける特徴を振り返っていく。
ワンボックスカーをRVに変えた先駆け1969年 初代 デリカ コーチ
もともとデリカは1968年にトラックとして登場。その派生としてルーフをリアエンドまで延ばし、荷物を野ざらしにしないバン並びにワゴン仕様のデリカ コーチが’69年に誕生した。
当時ワンボックスカーには、荷物を運ぶくらいの用途/認識しかなかったが、デリカの居住性の高さが功を奏しRV(レクリエーション・ヴィークル)としても使われるようになり、’70年代以後、デリカに触発されたミドルクラスのワンボックスが次々と造られるようになった。
4WD+ディーゼルエンジンがデリカの個性に1979年 2代目 & 1986年 3代目 デリカ スターワゴンデリカに走りの要素が与えられるのが2代目からである。誕生当初は2駆のみの設定だったが、1982年のマイナーチェンジの際にパジェロに使われていたパートタイム式の4WD、さらにはトルクフルな2.3Lディーゼルターボエンジンを採用したモデルがラインナップに加わった。
オフロード、雪道でも難なく走る走破性の高さもウリとなり、現代へとつながるデリカのアイデンティティが形成される。第3世代への進化の際、その個性が特にデザインに反映された。
安全性、快適性がより際立ったデリカのアイコン
1994年 4代目 デリカ スペースギア三菱は時流を完璧に読んでいたのか!? バブルが崩壊し、1990年代の初頭から個よりも家族、友人との時間を大切にしようというムードが社会的に漂い、各社ミニバンを積極的に造っていくようになる。そんな折に市場投入されたのが4代目のスペースギアだ。
衝突安全性を高めるためにボンネットが設けられたことでデザインも大きく変わった。室内が完全なフラットフロアで、クラス初のウォークスルーが採用されたことも話題になった。
苦境をバネに生まれたクリーンディーゼル2007年 5代目 デリカ D:54代目のモデル末期、排気ガス規制強化によってディーゼルエンジンの排気ガス浄化の困難さが影響し、デリカのひとつのメリットだったディーゼルエンジン搭載モデルがラインナップから消える。
しかし三菱はそこからクリーンディーゼルの開発を推し進め、RVRやアウトランダーの海外モデルに採用したのち、5代目デリカで復活させる。排気ガス問題をクリアしただけでなく静粛性も優れていた新しいエンジンは、その後のディーゼルブームを牽引した。
ダカール・ラリー参戦で実力を証明4代目以降のデリカのエンジン、メカニズムはパジェロやアウトランダーといったオフローダーに採用されているものがベースとなっている。ゆえにD:5もそれらに負けず劣らずの悪路走破性を持つ。
その証拠に、パジェロのサポートカーとして2007年ダカール・ラリーに参戦し、砂漠を含む約7000kmにも及ぶ行程を、たった一度のトラブルもなく完走したのだ。そして、D:5発売当時のチラシ(写真右)にも、ダカール・ラリー完走がアピールされた。
デリカに対する欧州チームはどのような布陣か。デザインで妥協せずに選べる有力車を選抜した。
小柄なボディながら、室内はファーストクラス級
シトロエン グランドC4 スペースツアラー
C4 ピカソの流れを汲む丸みを帯びた、近年の日本のミニバンデザインとは反したフォルムが最大の特徴。最近、たびたび街中で見かけるようになったのだが、左右のLEDポジションランプをつなぐクロームのライン、上下にセパレートするフロントグリルといった独特な意匠も相まって、いい意味での違和感を醸す存在である。
ミニバンでもデザインに妥協したくないのであればグッドな選択肢。今こそ狙い目かもしれない。
後ろのライトも個性的で独特の存在感を放つ。ボディサイズは全長4605×全幅1825×全高1670mmと比較的小柄なのだが、設計の妙によって2列目シートも個別の前後スライド、リクライニングが可能なほどのゆとりある室内を実現。シトロエンはC4 スペースツアラーの空間を“ファーストクラス並みの7シート”と謳っている。
走りやデザインも楽しめる
国産とはひと味違う欧州3大ミニバン
ミニバンのマーケットは日本が突出しているのは言うまでもないが、欧州でも数は少ないがミニバンを展開するメーカーはある。
走りやデザイン性などに特徴を持つ、輸入ミニバン代表3車種をそれぞれ見ていこう。
ちょっと狭いけれども、走りのアドバンテージがウィークポイントをカバー BMW 2シリーズ グランツアラーBMW初のミニバン。パッケージもさることながら、輸入ミニバンとしては発売された2015年当時、初となる2.0Lのクリーンディーゼル搭載モデルをラインナップしたことでも話題になった。
ボディサイズは全長4585×全幅1800×全高1640mmと、C4 スペースツアラーよりもさらに小ぶり。若干3列目に狭さを感じるが、BMWには走行性能という大きなアドバンテージがある。ミニバンでも走る楽しさを諦めたくない人にオススメだ。
218dに搭載されるクリーンディーゼルエンジンは、1750rpmという低回転域から330Nmの最大トルクを発生。走行状況などを検知し、瞬時に前後アクセルへの駆動トルクを最適に配分する4WDシステムのxDriveを加えれば(ノーマルグレードはFF)、さらにアクティブな走りを楽しめる。ミニバンでもちゃんと“BMWの走り”が堪能できるのは、高ポイント!
安心・安全、便利さが追求されたフルサイズミニバン
フォルクスワーゲン シャラン
全長4850×全幅1925×全高1810mmのフルサイズミニバン。質素だが質感が良く、走りも硬めで安定性の高いフォルクスワーゲンらしい造り。現行モデルで3代目となるが、先代より積極的に取り入れられたのが運転支援機能である。
そのほか、スマートフォンとインフォテインメントシステムを連携できるアップコネクトが付いていたり、後席一体型のチャイルドシートが選択できたりと、家族の安心・安全や便利さも追求されている。
ユニークなのは座面を起こし、ヘッドレストを装着するだけで完成する一体型のチャイルドシート。また、標準装備される運転支援機能は自動で加減速が行われるアダプティブクルーズコントロール、車線逸脱を防ぐレーンキープアシスト、前走車に近づきすぎたときに注意喚起するプリクラッシュブレーキシステムなど。遠出をして疲れて帰るとき、これらが乗る人を守ってくれる。
ミニバンのゆとりと高いデザイン性も欲しい方へ メルセデス・ベンツ Vクラス 輸入ミニバンの王道といったらVクラスだろう。王道という理由には、「メルセデスだから」という点ももちろんあるが、今回取り上げた欧州の4モデルのなかで、最も日本の3ナンバーミニバンに近い設計だと思われるからだ。
箱型のボディフォルム、ウォークスルーができる広い空間。十分なゆとりが欲しく、デザインでも妥協したくないという方へ、最良となる選択肢である。キャンプに最適なポップアップルーフ仕様も用意されている。
シートに本革が用いられていたり、インパネ回りには木目が美しいトリムが張られていたりと、メルセデスらしい上質な設え。独立している2列目シートは3列目と対面にすることも可能。エクストラロングのグレードを選択すれば、スライド式のセンターテーブルも付く。
大隅祐輔=構成・文