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不動産業の悪癖に染まっていった20代後半

給与への不満から転職を決めた鈴木さんは“年収1500万”という文句に目をとめ、不動産屋に転職を決めた。
「入社して数時間で、年収1500万円をもらっている人はこの会社にはいない、とすぐに気づきましたけどね(笑)。片っ端から知らない番号に電話をかけて、家を購入しないかと営業する仕事でした。どんどん新しい人は入社するけど、そのぶん辞めて行くのも早かった」。
冒頭の”電話ぐるぐる巻き”も、その頃の経験だ。15人ぐらいいた同期は、気づいたらみんな辞めていた。仕事はキツかったがそれでも鈴木さんは簡単に諦めたくなかったという。その後、販売から賃貸の部門に異動し、業界のあくどい慣習に染まってしまう。
「悪い不動産屋って本当にいるんですよ。礼金を1カ月から2カ月に書き換えたり、駅徒歩8分を5分にしたり、賃料7万8000円の物件を8万円にして『今なら2000円下げられますよ』とか……あの頃はなんでもありでした」。
その一方で、不動産の仕事は成績が収入にも直結する。それは求めていた手応えでもあったという。
「悪いことをやっていると理解していたけど、やらないと給与が上がらない。これは偶然なんですけど、ノルマをクリアしなかった場合、アパレル時代と同じで給料は12万円なんです。当時は収入のために必死でした」。
悪い物件でもお構いなしに紹介し、成績が上がるにつれて、トップになりたいという欲が生まれ、さらに夢中になった。成績は常に1位、2位をキープしていたという。
「事前に物件のマイナス情報を伝えておいて期待値を下げ、実際に見たときの心証を良くしたり、ほかの契約が決まりそうな素振りを見せてお客さまを焦らせたりしていました」。
それは現在もきっと不動産屋で使われているであろう、心理的テクニックのひとつ。鈴木さんはそんなやり方にどこか疑問を感じながらも心に蓋をしていた。


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