衣・食・住のバランスを考えてみる。若い頃は衣への興味が圧倒的に大きかったが、今では住環境を良くしたり、食や酒への興味が強くなったり、食住への余剰資本投下比率が高まるオーシャンズ世代、多いはず。
であれば、食卓で過ごす時間が豊かになれば、人生は豊かになるはずだ。そこで、「うつわ」デビューしてみるのはいかがだろうか?
ここでは、同じ時代を生きてきたからこそ共有できる感性を持つ、同世代作家の作品に注目してみたい。まず選ぶべきは、食卓でいちばん出番が多い直径21cm程度の七寸皿。ひとまずこれで、食べ慣れたカレーライスでも食べてみてほしい。いつもの味が不思議と旨く感じられたら、うつわ道、はじめの一歩大成功。
細やかな手技でざっくり感を生み出す面白さ
池田大介さん作
1979年、新潟県生まれ東京都育ち。大学の芸術学科で陶芸専攻を卒業後、滋賀県立陶芸の森スタジオアーティストを経て、信楽の工房で陶磁器の制作に携わる。2007年から東京都・町田市にて作陶。写真のヘリンボーン柄をはじめ、自作の陶印や道具による模様をうつわ全体に施す作風が面白い。「日々の食卓で、なぜかいつも使っているうつわであったらうれしい」と言う、その謙虚さが作品にも表れている。
ヨーロッパ伝統の技法を独自の世界観で作り込む
山田洋次さん作
1980年、滋賀県生まれ。2002年、滋賀・信楽窯業技術試験場の研修制度を修了。’07年、ロンドンに渡り、重曹をスプレーで窯に投入する技法「ソ−ダ釉」を学ぶ。’08年帰国し、再び信楽に。しかし、ヨーロッパで一般的なソーダ釉は専用の窯を要するために断念。同じヨーロッパ発祥で、うつわの表面を泥状の化粧土で装飾する「スリップウェア」に取り組む。躍動的な模様と、焼締のざらっとした質感が特徴で、重厚感のある仕上がり。
たゆたうような色の濃淡が食卓のアクセントに
村上雄一さん作
1982年、東京都生まれ。“やちむん(焼き物)”の里と呼ばれる沖縄県・読谷村、美濃焼で知られる岐阜県・多治見市で研鑽を積み、2011年から岐阜県・土岐市に工房を構える。写真手前から「湖水色」「薄墨色」と名付けられた縁付きプレートは、窯変による独特の色合いが特徴。均一の色みではなく、まだら模様のニュアンスが美しい。上質さを感じさせつつ、日常使いにフィットするシンプルさで、盛り付ける料理を選ばない。
ハッピーな気分にさせてくれる食器
岡村友太郎さん作
1980年、神奈川県生まれ。父母、姉の家族全員が陶芸家。美大を卒業し、2010年から実家である岡村工房で作陶を始め、子供向けの陶芸教室も開いている。「毎日がハッピーになる作品を作ること」が目標で、陶芸の技術を磨くより、“ハッピーを磨く”ことでいい作品ができるという信念を持つ。滑らかさと野趣が同居したような色無地の皿は、シンプルながら味わい深い。また、裏には手描きのイラストが隠れている。
100年後のアンティーク食器を目指して
阿部慎太朗さん作
1985年、香川県・高松市生まれ。大学のサークルで陶芸を始め、卒業後、茨城県工業技術センター窯業指導所を修了。指導所のあった笠間市で工房を持ち、作陶を続けている。目指すのは、「100年後、アンティーク食器として流通できるもの」。しかし、「愛でるのではなく、割れても欠けても食卓に上ってこその食器」だと語る。艶やかに浮かび上がる縁のレリーフは華美になりすぎず、静かで柔らかいグレーを引き立てる。
300余年続く焼き物を新天地で守り育てる
陶 正徳さん作
1974年、福島県・浪江町生まれ。浪江町で300年以上続く大堀相馬焼の窯元「陶徳窯」10代目。相馬焼の特徴は、伝統技法である焼成後にできる微細なひび。器全体に広がったひびが地模様となって、素朴な味わいと温もりを醸し出す。花をイメージした平鉢は、縁に削り模様をつけたモダンな作風。浪江町の工房は東日本大震災で避難を余儀なくされたため、郡山市に移転して作陶を再開。新天地で“新しい相馬焼”に挑んでいる。
山田秀隆、竹崎恵子=写真 佐々木 誠=スタイリング 伊藤 悠=文 押条良太(押条事務所)=編集・文