なお、先ほどから気になっているのが口と舌のピアスだ。
「口ピはずっと開けたかったんです。舌と両耳を合わせると数は2桁を超えていますね」
もしや、マスクはピアス隠しのためだろうか。
「いえ、私、自分の顔が好きじゃなくて、あまり人に見られたくないんです。今回の取材も受けるかどうかさんざん迷いました。今もまだ緊張しています」
そんな悠さんは宮崎県の日南市生まれ。2年半の結婚生活にピリオドを打ち、最近上京した。現在、昼はコンビニ、夜はこの店で働いている。ダブルワークの理由は「親に学費や自動車学校のお金を返したくて」という殊勝なものだった。
「本当に田舎で、うちも含めて牛を飼っている家が多かったですね。子供の頃は男の子と一緒に木登りをしたり川で遊んだりしていました」
高校卒業後はバンド活動に夢中になり、ブルーハーツのコピーバンドなどでベースを担当していた。今はアコギを練習中だそうだ。
意外にも「ちゃんとしたお酒デビューは、ついこないだ」だという悠さん。しかし、飲み始めてわかったのは自分がお酒に強いということ。友人とテキーラをショットで飲み続けた日も潰れなかったそうだ。
「結婚しているときは旦那さんがお酒を飲ませてくれなかったんです。ようやくお酒デビューできたから、私にとっては今がハタチの気分です」
この男性スタッフによれば「まだ入ったばかりだけど、すごくしっかりしていますよ。ちゃんと人を見ていて、その瞬間瞬間にベストな動き方ができる子です」。
日本酒については勉強中だが、かなり貪欲に知識を吸収している。先の「No.6」を含む新政酒造の銘柄を3本持ってきて、その違いを解説してくれた。
「『No.6』と右端のは美山錦、真ん中のはあきた酒こまちという酒米を使っています。火を入れていない生酒は『No.6』だけで、要するに菌が生きている状態。他は、作る過程で火を入れたものです」
取材の冒頭で悠さんは「故郷の宮崎は焼酎文化なので日本酒はオススメできないんですよ。酒蔵も2つしかないし」と言っていた。しかし、せっかくなので最後に“白いバラ”の花を咲かせて帰りたい。
心なしかうれしそうな表情で持ってきてくれたのは、宮崎県産米を使用した純米酒「千徳」。
プレミア銘柄のような華やかさはないが、じつに日本酒らいしい旨味だ。悠さん、今日から自信を持って薦めましょう。
なお、この店にはLINE登録者のみにこっそり教えてくれる「スタッフの隠し酒」もある。
さて、看板娘の半生を肴にいただいた美味しい日本酒と料理。大満足です。お会計とメッセージをお願いします。
石原たきび=取材・文
【取材協力】 夢酒 新宿本店 住所:東京都新宿区歌舞伎町2-39-5 エムティティ新宿2F 電話番号:050-7302-3044https://guruuma.com/yumezake-snjk/