OCEANS

SHARE

2019.01.13

ライフ

真冬に災害発生! オッサンと家族を襲う4つのピンチに頼れる技とギア

人間、追い込まれたときにこそ器が知れるもの。例えば職場や家庭でも、不測の事態にも動じずに的確な対処をしてのける、そんな姿は老若男女誰の目にもクールに映るはずだ。
それが命に関わる災害時ともなればなおのこと。

“非常事態”は意外と身近にある。地震や津波などの大きな自然災害だって他人事じゃないのは我々にとって周知の事実だ。
もちろん災害が起こらないのが理想だが、もしものときの備えは必要。そして、アウトドア用のアイテムや技術にはそのためのヒントが多く隠されているのだ。
「体温、水、火。それと、より快適に過ごすために必要なもの。非常時に必要な概念は大きく分けるとこんな感じです」。
ワイルドアンドネイティブ代表、川口 拓さん。
そう語るのは、サバイバルインストラクターとして自衛隊の危機管理教官も務める川口 拓さん。さまざまなアウトドアに精通し、かつては自然の中での生き方を深く学ぶために渡米し、ネイティブアメリカンの教え、技術を学んだという筋金入りのサバイバーだ。
 

ピンチ1:「災害発生時の孤立」
-災害発生! まずやるべきはシグナリング-

体温、水、火。確かにどれもサバイバルでは重要そうだ。しかし「それより前に……」と川口さんはひと呼吸入れて話す。
「災害が起きて孤立してしまったとき、何よりも大事なのは『見つけてもらう』こと。レスキューしてもらうために、自分がそこにいることを周りに伝わりやすくすることをシグナリングと言うんです」(川口さん ※以下カッコ内は川口さん)。
実際に震災や遭難などでは救出のタイムリミットはたった72時間とさえ言われる。そこで発見される確率を上げることは最優先でやっておかねばならないというのだ。
川口さんのシグナリングアイテム
シグナリングのための道具類。左からホイッスル×2、ライト、リチウムイオンバッテリーとLEDフラッシュライトを搭載したソーラーチャージャー「ワカワカ パワープラス」、太陽光を反射させて居場所を知らせるためのシグナリングミラー。
「サバイバルや危機管理においては常に“バックアップ”という考え方が重要になってきます。1つのものが機能しなかったときに別の方法や道具で補う、機能させるということですね。シグナリングにおいてはまず相手に“見える”か、“聞こえる”ようにすること。いちばんは、太陽光。これ以上ない強さの光なので、それを反射させるのがもっとも有効なんです。このシグナリングミラーは照準付きで、上空のヘリなんかにもしっかり狙って光を当てることができるんです」。

逆に暗い夜間にはライトの光がサインとしては効果的。写真のホイッスルは救助用で、かなり大きな音が鳴るので、こちらも昼夜ともに活用できる。緊急時にはピーッ!ピーッ!ピーッ!と3回吹くのが一般的な要救助の合図だそう。
そして、もう1点、現代においてもっとも有効なツールのひとつがスマホだ。
「シグナリングのためにさまざまなツールがありますが、実際にいちばん活躍するのはスマホでしょう。でも問題はやっぱりバッテリー。このソーラーチャージャーなどを普段からバッグにぶら下げていると、非常時でもスマホの充電ができるんです。ライトも付いていて、水の入ったペットボトルに付けるとボトルが電球のように周囲を照らしてくれますし、ボタンを長押しすればSOSパターン発光もしてくれます」。

「これが素晴らしいのは、1回点ければたとえ自分が気を失ったとしてもずっと発光し続けてくれるところ。だから僕はシグナリングに関しては特にこのソーラーチャージャーを重要視しています」。

 

ピンチ2:「冬や山での寒さ」
ー最大の敵は低体温!ー

そうして救助を待ちつつ、いよいよ本格的なサバイバル術の実践へ。身を護るうえで最初の鍵となるのは「体温の確保」だと、川口さんは言い切る。
「災害時に限らず、低体温はサバイバルでの死亡要因で圧倒的に多いんです。そのために体温は絶対に下げちゃいけない。外的熱源から熱を得るよりも、まずは今ある体温を逃がさないことが肝心です」。

そのための代表的な条件が「雨に濡れないこと」「風に当たらないこと」の2つ。その両方を防ぐために、タープは有効なアイテムだと言う。
「僕が使っているのはDDハンモックの『DD スーパーライト タープ』。持ち運びやすいサイズなんですけど、広げると2.8×1.5mと結構大きいんです。1枚屋根としても、三角屋根にしても使えます。三角屋根だと雨の流れをコントロールしやすいのが利点ですね。タープを留めるにはパラシュートコードを使います」。
川口さんが使っているコードは米軍でも使われているタフグリッドというメーカーのもの。対荷重340kgというタフなつくりで、使いやすいようにあらかじめ1.5mに切ったものと3cmに切ったものの2種類を、5本ずつほど携行しているそう。
川口さんの体温確保アイテム
体温キープの必需品。右●「DDタープ」はサイズ違いで。中央上●断熱性のあるスナグパックの「ジャングルブランケット」。中央下●タフグリッドのパラシュートコード。左上●SOLのビビーサック。アルミを蒸着した特殊なフィルムを使うことで、90%という高い熱反射率を実現した寝袋だ。左下●オーソドックスだが、レインコートも軽視できないギア。
「冬用の寝袋などを携行できれば最高ですが、それだけでバックパックがいっぱいになるほどの体積です。なので非常用持ち出し袋の中身としては、最低限の保温が可能なブランケットを入れています。体温は寝ようとすると下がるので危険なんです。そのときにブランケット型だと寝ころばなくても羽織って屈めるから、冷たい地面との接点も少なく、さらなる体温低下を防げる。寝袋型にはないメリットですね」。

寒い場所での要救助の際には、極力その体勢でいるのがベストなのだそう。しかし、もちろん体力を回復するためには睡眠も不可欠。そのためには昼間の暖かい時間に睡眠をとるのが良いそうだ。その際はやはり寝袋も有用で、川口さんの使っているSOLの「エスケープ ビビー」は防水仕様で保温性も高いのが選定の理由。

 ちなみにレインコートやブランケットの内側に乾燥した草や落ち葉、クシャクシャにした雑誌や新聞などを入れることでより防寒性が増すので、そちらも覚えておきたい。ダウンジャケットの要領で空気の層をつくることをイメージするとわかりやすいハズ。
 

ピンチ3:「飲み水の不足と脱水」
ー制限時間は72時間。脱水は命を奪う!ー

暖を取るために次は火か? と思いきや、実はそうじゃない。まずは水を手に入れることが先決だ。
「要は、タイムリミットの順番なんですよ。低体温に陥ると人間は数時間で死んでしまうんですが、その次にタイムリミットが来るのが水なんです。大体、72時間水分補給できないと、人間は脱水症状を起こして危険だと言われています。東日本大震災では72時間以内に各地に給水車が来てるんですけど、それよりもハードな状況も想定しておかないといけません」。

先の地震や停電時もコンビニからミネラルウォーターが消えたのは記憶に新しい。そうした市販品が手に入らなくても、安全な水を確保する必要があるのだ。
「都市で災害があったとき、付近を流れる川から飲み水を得なければならないという最悪な状況を想定したとすると、有害な物質は、菌やバクテリアだけとは限りません。ヒ素、炭そ菌に除草剤、農薬とか、そういうものもろ過できる浄水器が必要です。僕はこの『セイシェルサバイバルプラス』を使っています」。
川口さんの飲み水確保アイテム
「セイシェルサバイバルプラス」は、電源不要、フィルターのみでのろ過ながら、放射性物質も約99.78%除去できるというスクイズタイプの浄化ボトル。川口さんが使うこちらは自身の講習会で売っているというアーミー仕様。
「使い方はフタを開けて、水を入れて閉めるだけ。元となる水は池や川などから補給します。日本の正規代理店の社長さんはこれを使って都心の川の水を飲んでいましたね」。
もちろん、完璧な精製水とまではいかないので非常時の手段として心得ておきたい。
 

ピンチ4:「細菌感染と体力低下」
-火は体力と安全性の確保、両方に活きてくる!-

そしていよいよ火の出番。暖を取るための焚き火としては当然だが、その最大の役割は「煮沸」だという。
「高性能なろ過器を使用する以外にも、菌やバクテリアを除去するのには煮沸もかなり有効です。ウイルスも処理できます。それに、弱っているときに温かいものが飲めるとかなり元気をもらえますしね」。
川口さんは火を起こすための道具類の大半をビニールのジップバッグに収納している。湿気による機能低下を防ぐためだ。
川口さんの火起こしアイテム
左上●「ソロストーブライト」。二重壁構造で燃焼効率が高く、ガス無しで小枝などを燃焼させやすい。 右上●スノーピークの「ケトルNO.1」はソロストーブライトがすっぽり中に収まるサイズ感。中央は着火道具収納用の革袋。 右下●オレンジ色のコードを付けているのはエクソタックのオイルライター「タイタン」。機密性が高く、揮発がかなり抑えられているのがポイントで、ウィンドシールド付きなので強風下でも着火しやすい。 その上にあるのは、同メーカーのメタルマッチ。多少濡れても水気を拭き取れば火花が散るので、ライターのバックアップには最適だ。 左下●ビニール袋入りの2品は着火材で、それぞれワセリンを染み込ませたコットンと、麻紐をほぐしたもの。
「オイルライターは便利ですけど、オイルが無くなったら使えません。そのときのバックアップとしてこのメタルマッチを使います。火花を起こしてワセリンコットンに引火させると、6分くらいはそれで燃えてくれますよ」。
五徳付きの「ソロストーブライト」に乗せるスノーピークのケトルは取っ手付きで、そのまま鍋やコップとしても使用できる。最低限の食事もこれでまかなえるのだ。
木の枝を細かくしたり、ロープを切ったりと、ナイフは何かと役に立つので、常備しておくのがベター。こちらはスウェーデン発のモーラナイフのもの。
 

これで、家族を守れる確率は劇的に向上する

「体温を確保して水が手に入って、火を焚いて、煮沸したり温かいものを食べられる。これさえできていればサバイバル状況下でもかなり長く生きていけます。そうして最低限の生活を維持しつつ、シグナリングを続けるのが災害時の基本です」。
川口さんはこれらのアイテムをバックパックにまとめている。さほどかさばらないので、日頃から自宅に備えておくことで自分と大切な人をきっと守ることができるはず。
ちなみに、丁寧にレクチャーしてくれた川口さん、実はこの日が第2子の出産予定日。いつでも駆けつけられるようにと病院のすぐそばでの取材となった。どんな非常事態にも備えを怠らないその精神、いざというとき頼れる夫や父であるために、我々も見習わねば!
話を聞いたのは
WILD AND NATIVE 代表

川口 拓さん
1971年、埼玉県生まれ。幼少期に観た映画『ランボー2』に衝撃を受け、サバイバル術に傾倒する。修行のために訪れたアメリカでネイティブアメリカンの教えを受け継ぐアウトドアマンの大家、トム・ブラウン・ジュニアに師事。帰国後は防災やサバイバルのノウハウを伝え広めるべくWILD AND NATIVEを設立。日本におけるブッシュクラフトの草分けとしても知られ、ジャパン ブッシュクラフト スクール校長も兼任。著書に『ブッシュクラフト ~大人の野遊びマニュアル』などがある。
https://wildandnative.com/
岡部東京=写真 今野 壘=編集・文


SHARE

次の記事を読み込んでいます。