「うちに出入りしていた生命保険の外交員のおねえさんが、プロを交えたコンペがあるからって親父を誘ってくれたんです。でも親父やらないんです。そもそもゴルフを始めそびれて、周りの仕事仲間とかみんなやってるなかで、あとから始めたら下手くそでしょ? すっごい負けず嫌いなんで、“もうやらん!”と(笑)。だから、僕に“ゴルフぐらいやっておいたほうがいいから、おまえが代わりに行け”って」。
コンペまでおおよそ1週間、久古さんはまず、道具一式を買いに行った。有名な大手量販ゴルフショップだ。まったく予習せず、ほぼ一切の興味もなく、店員さんに伝えたのはこんなひとこと。
「俺に合うのください」「そんなん言われても分かりませんよね?(笑)。プロの僕が初対面の人に同じこと聞かれても答えられないもん。だから当時の店員さんも結構適当だったと思います。クラブ一式セットになったやつとショップオリジナルのキャディーバッグと、いま僕が使ってるみたいなプロ仕様の高級なグローブとシューズ買いました。それで練習場持ってる親父の友達のところに行って……いま思えばその人、上手なアマチュアなんですよね。そこで握り方と構え方、ちょっとしたポイントなんかを習って、1週間後にはコンペに出ました」。
初めてのラウンドでのスコアは「103」。
「そのとき、一緒に回ったプロから言われたんです。“オマエ、プロになれるぞ”って」。
まさか本当にプロになるとは、このときは誰も思っていなかった。
【Profile】 久古千昭さん 1965年、千葉県成田市生まれ。26歳で初めてクラブを握り、脱サラの末プロゴルファー研修生を経て31歳でプロテスト合格。現在、「梶川・久古ゴルフアカデミー」主宰。プロゴルファーでありつつ不動産業を営む。稲田 平=撮影 武田篤典=取材・文