毎シーズン我々に大きな驚きと喜びを提供してくれるハイブランドのコレクション。
その裏には、社会貢献と既成概念に囚われない挑戦があった。ここで紹介するアイテムには、それが見て取れる。
街角で大きくなっていく小さな善意
ここ数年、ハイブランドが“ストリート感”を取り込む傾向が続いている。バレンシアガはその代表格で、今季のルックにもこんなベルトバッグやキャップがコーディネイトされていた。
ただし、これらは単にストリート感を醸すだけのものではない。世界中の飢餓を解消するための食糧支援機構「WFP」との取り組みにより生まれたアイテムなのだ。
今日、世界では8億人を超える人々が十分な食料を得られない状況にある。しかし、例えばこのキャップ1点を購入すると売り上げの一部が寄付され、WFPは200個以上の高エネルギービスケットを用意することができるという。
ファッションを通じて、そしてストリート=街角から小さな善意が生まれていく。そんなふうにして社会は少しずつ変わっていくのかもしれない。
エルメスが切り取る西海岸
この財布とキーホルダー、どちらもテーマはアメリカの「西海岸」。財布は、80歳を超えた今もLAの風景を描き続けている画家、デイヴィッド・ホックニーへのオマージュだ。
彼が描くオブジェのような風景のごとく、美しいレザーで海と山の連なりを表現。一方のキーホルダーは実際にありそうな西海岸のモーテルの、ルームキーのようなデザインが楽しい。
一見遠く思えるエルメスと西海岸。でも、財布は山に当たる部分の土台の革を薄く削ぎ、凹凸を最小限に抑えるという職人技でかの地を巧みに表現し、キーホルダーのユニークな雰囲気や意匠はまさにエルメスらしいエスプリを具現化したものだと思う。
今季初お目見えとなるこのコレクションだが、この先もさらなる広がりを見せそうな予感がする。
清水健吾=写真 柴山陽平=スタイリング