「大人のCOMIC TRIP」を最初から読む毎日満員電車に揺られ、林立するビルの間を早足で駆け抜ける。夜になっても消えないオフィスの灯りを眺めては、どっと疲れが押し寄せてくる。そんなとき、ふと「田舎で暮らしてみたい」と思うことはないだろうか。
それは現実逃避にも似た願いだ。しかし、なんのしがらみもない土地で、自然に囲まれた生活を送るというのは、ある種、男のロマンでもある。そんな夢を現実のものとしてしまったマンガ家がいる。それが守村 大氏だ。
守村氏は『あいしてる』『考える犬』(いずれも講談社)などの代表作を持つマンガ家。しかしながら、連載に追われる生活を30年ほど続けたある日、突如、未開の山で自給自足の“原始生活”を送ることを思いついたという。そんな守村氏の毎日を実録マンガとしてまとめたのが『まんが 新白河原人 ウーパ!』(講談社)。
本作で特筆すべきは、その原始生活が事細かに描写されていることだ。未開の山の歩き方はもちろん、大木の伐採の仕方、挙句の果てには、丸太小屋の建て方まで……。そう、驚くことに、守村氏は、自身が住む“家”まで自給自足してしまったのだ。しかも、その出来栄えは想像以上。素人レベルなどと笑うことができない完成度である。
その暮らしぶりを生半可な気持ちで真似ることはできない。しかし、男のロマンを実現させてしまった守村氏には、憧れの念を抱かざるを得ないはずだ。ちなみに、守村氏が厳しい条件下でのセカンドライフをスタートさせたのは、47歳の頃。たとえ何歳であろうとも、やる気さえあれば、男は夢を叶えられる。守村氏の日々をなぞることで、そのように背中を押される読者も少なくないだろう。
最新単行本である第8巻では、少年時代を思い出させる秘密基地「ツリーハウス」を建築する様子も収録されている。守村氏の探究心は、どこまでも果てしないのだ。
都会の生活に疲れた大人たちは、ぜひ本作で、憧れの田舎暮らしを疑似体験してもらいたい。そして、その気持ちが消えないのであれば、本作を教科書代わりに、第二の人生を田舎でスタートさせてみても良いかもしれない!?
五十嵐 大=文
1983年生まれの編集者・ライター。エンタメ系媒体でインタビューを中心に活動。『このマンガがすごい!2018』では選者も担当。