そういう人が何かをきっかけに、杉窪さんの定義する職人になれるのか。あるいは根本的な問題なのか。果たして杉窪さんは「育ちなんですよ」と答えた。
「根本的な考え方の違いです。そもそも修行を始める段階から、どんなふうに思ってその世界に入ってきているかで、明らかに違いが出ると思います……いや、もっというなら家庭環境からじゃないかな。どういうしつけを受けてきて、どういうふうに育ってきたかで職人の資質は決まると思います」。
杉窪章匡の祖父は、父方・母方とも輪島塗りの職人だったという。
「祖母が亡くなったとき、僕はお菓子の勉強をしていたんですが、“お前は修行の身だから帰ってこなくていい”と言われるような家でした。あと父親が『365日』のオープンして1カ月後ぐらいで亡くなって。もちろん帰るじゃないですか。そしたら父方の兄弟たちが“お店をオープンしたばかりでこんなところにいていいのか!?”って。結局帰されて、僕、父の通夜と葬式出てないんですよ。それがいい悪いという話じゃなくて、一族がそういう考えだったんですよ」。
そういう「育ち」なのである。
【Profile】 杉窪章匡 1972年生まれ。石川県の輪島塗職人の家系に生まれ、毎食10品以上おかずを作る母の元で育つ。高校中退後、16歳で辻調理師専門学校に学び、パティシェとしてキャリアを積む。24歳でシェフとなり、27歳のとき渡仏。2年間の修行を経て帰国後、パティスリーや人気ブーランジュのシェフを担当。40歳で独立し、株式会社ウルトラキッチンを興す。愛知、福岡、神奈川でパン屋をプロデュース後、2013年に直営店「365日」を開業。2016年にカフェ「15℃」をオープン。2018年には「ジュウニブンベーカリー」と「365日と日本橋」をオープン。稲田 平=撮影 武田篤典=取材・文
次の記事を読む