職人とは何か「365日」は2013年にオープンした。2016年には、同じ代々木公園エリアにカフェ「15℃」をオープン。2018年5月には新宿京王百貨店に「ジュウニブンベーカリー」という新業態の店舗を展開。9月には日本橋高島屋に「365日と日本橋」を出店する。
「365日」には日々、約60種類のパンが並ぶ。また旬に応じて種類も変わる。事務所のホワイトボードにはさまざまなパンの形が描かれていた。新しい店を開くに際して「こんなパンを出したい」というアイディアはどんなふうに考えているのだろう。
そうたずねると、杉窪さんは首を振った。
「“このパン出したい”みたいな感情って、僕にはないんです。一生使わなくていい技術はあっていいと思って修行してきました。例えば1000パターンぐらいレシピを持っているとしても、100出せればいいだろうと思ってやってきているんですね」。
ええと……。まごついていると杉窪さん「あ、伝わってないな」って顔をしてニヤッとした。
「つまり自分のために仕事はしてないということなんです。“〜したい”っていうのは自分の欲求を満たすことですよね? そう思ってる人って多いと思うんですけど、それって仕事じゃなくて趣味なんですよ。“せっかく習得したんだから、この技術を使いたい”とか、“こんなパンを思いついたから食べさせたい”って思うのは趣味の領域。一流の職人の姿勢ではないです」。
お客さんに喜んでもらうこと。例えば1000パターンのパンのレシピは脳内にある。代々木公園の「365日」では、そのなかから何を使えばお客さんに喜んでもらえるか。新宿というターミナル駅の京王百貨店内のショップでは、どんなパンが受け入れられるか。
「これは場所が決まってる場合の考え方ですよね。もちろん逆の場合もあります。あらかじめ商品があって、それはどこで売ったらお客さんに喜んでもらえるか」。
修行の成果を押し付けるような職人は三流だと杉窪さんは言う。なんとなくそんなタイプの職人は多い気がする。手にした技術を全力で開陳したい。自分の流儀をお客に主張するガンコな人を我々はよく「職人気質」とか呼んだりする。
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