「大人のCOMIC TRIP」を最初から読むこの子のためならば、どんなことだってする――。かわいい我が子の誕生を目にしたあの日、そう決意した父親は少なくないだろう。子供の存在の重さは計り知れない。ときに、思いもよらない力を沸き立たせてもくれるのだ。
そんな男性陣を代表するような、マイホームパパを主人公に据えたマンガがある。それが『マイホームヒーロー』(山川直輝 原作、朝基まさし 作画/講談社)だ。
本作の主人公・鳥栖哲雄(とす・てつお)は、推理小説の執筆を趣味とする、普通のサラリーマン。妻・歌仙(かせん)と、18歳になるひとり娘の零花(れいか)を心から愛し、平凡ながらも穏やかな暮らしを送っている。
しかし、あるとき、零花の異変に気づく。そこにあったのは、誰かに殴られたようなアザ。娘が暴力を受けている。それを確信した哲雄は、娘の後をつけ、彼氏と思しき男・麻取延人(まとり・のぶと)の正体を探る。それが悲劇の始まりとも知らずに……。
結果的に、哲雄は延人を殺害してしまう。そして、その日から哲雄の日々は一変する。殺害の証拠を隠滅し、普段通りの日々を取り戻そうとする哲雄。その一方で、行方不明になった延人の足取りを辿る半グレ集団たち。行く先のわからない一進一退の攻防が幕を開けるのだ。
哲雄の犯した罪は、決して許されるものではない。しかし、その根底にある「娘を守りたい」という想いは、子を持つ親ならば誰もが共感できるものだろう。自分がどうなろうとも、子供を守り抜く。それは親世代が抱く、献身的な愛情。本作では、「殺人を犯してしまった」という極限状況のなかで、愛情の意味が際立って伝わる。
また、「推理小説を書くのが趣味」という哲雄の設定も、物語のサスペンス的な運びに説得力を持たせている。死体の分解方法、証拠隠滅の手順……。それらが非常にリアリティある描写で解説され、まるで一級のサスペンスムービーを観ているかのような印象を受ける。
ちなみに、作画を担当する朝基まさし氏は、90年代に『サイコメトラーEIJI』(講談社)を連載し大ブームを巻き起こした人物。当時は男子高校生を主役にした作品を描いていた作家が、月日を経て、今度は中年男性を主人公にした作品を手掛けている。それもまた、味わい深い。
五十嵐 大=文
83年生まれの編集者・ライター。エンタメ系媒体でインタビューを中心に活動。『このマンガがすごい!2018』では選者も担当。