2018年の今年、設立30周年を迎えたジョセフ アブード。数々のファッションアワードを獲得してきたアメリカのファッションブランドである。68歳にして現役のデザイナーが、ブランドの歴史と未来について語った。
ジョセフ アブードとは?
1987年に設立。世界への旅とアメリカンスタイルを融合した独創的なファーストコレクションが話題となり、一躍人気ブランドに。’90年代後半、デザイナーであるジョセフ・アブード氏本人が一時ブランドを離れるも、2013年に改めて参画し、その翌年よりコレクションを再開した。自然や旅から着想を得たナチュラルなカラーパレットをもとに、着る人の内面とライフスタイルを感じさせる服を提案する。今季よりホームコレクションもラインナップした。
「アメリカとヨーロッパをつなぐ服作りを意識してきた」
我々が常に問われる「清潔感ある装い」。その模範解答のひとつを示してくれるブランドが、ジョセフ アブードだ。自然や旅から着想を得た柔和なカラーパレットのコレクションは、2014年にブランドを再開して以降、日本でも着実に支持を集めている。来日したデザイナー本人に、ブランドに懸ける思いを聞く機会を得た。
「常に意識しているのは“モダンアメリカン”。この言葉の意味は、アメリカンプレッピーとヨーロピアントレンドの中間ということです。一般的に、“アメリカン=プレッピー”というイメージが強いと思いますが、そこにヨーロッパ流の洗練を加えたかった」。
アブード氏の考えの背景には、今もコアな服好きに語り継がれるボストンの名店「ルイス・オブ・ボストン」(現在は閉店)の存在がある。12年の長きにわたりそこで働き、ファッションに関するすべてのことを学んだという。
「生地メーカーとしてしか知られていなかった(エルメネジルド)ゼニアのウェアコレクションや、クラシコイタリアの名門ルチアーノ・バルベラなどを扱っていました。イタリアものとアメリカものが混在し、バイヤーが気に入った商品だけを並べる先鋭的なショップ。ここで私はバイイングから商品企画、ディスプレイまで、なんでもやりました。ファッションの専門学校には通いませんでしたが、ここが“学校”のようなものだったのです(笑)」。
大学では英仏の比較文学を専攻し、教師を志していたアブード氏だが、この店との出合いからファッションの道を歩むことに。そして店を離れたのち、1981年にポロ ラルフ ローレンのメンズ部門ディレクターに就任する。
「アメリカとヨーロッパのファッションの間に“隙間”があると感じたのは、ポロ ラルフ ローレン在職時のこと。プレッピー的な少年らしさと、ヨーロッパブランドが持つ大人の洗練。両方を併せ持つブランドがなかったのです」。
そんな思いを胸に、’87年、満を持して自身のコレクションを発表。アメリカという国のアイデンティティと旅の気分を融合したコレクションは大きな注目を浴び、彼の名を一躍世界的なものにした。その頃から変わらぬクリエイティビティの源泉は、自然が奏でる色彩だ。実際の旅で見た風景にインスパイアされることも多いという。
「予想のできない色合いが魅力なのです。自然が持つ“ハーフトーン”は味わい深く、全体的な調和をもたらします。また色彩だけではなく、旅の先々で得る感動そのものも、できる限り服に落とし込もうとトライしています」。
’90年代後半、商標権の問題で一時期ブランドを離れていたアブード氏。その後再びブランドを率いるにあたり、「本当に大事なことは何か」を自らに問いただしたという。
「服を作ることの“核”とは。その追求から再スタートしました。男性にとって最も重要なのは内面です。着る人の内面、つまりパーソナリティを引き出す服を作るべきだと決意しました。ですから、派手なデザインやロゴ使いをできるだけ排除して、ナチュラルな素材と色を大事にしているのです」。
68歳を迎えた米国ファッション界の重鎮は、今まさに意欲的な創作活動(※)のさなかにあった。そしてその眼差しは、確かに未来を見据えていた。
※意欲的な創作活動
ブランドの服作りを担うマサチューセッツ州郊外の工場へは、2週間に一度は足を運ぶという。また「いずれはスーツのビスポーク(オーダーメイド)も展開したい」と、そのアイデアは尽きない。
髙村将司=文 加瀬友重=編集