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2018.08.15

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ドラゴン桜作者・三田紀房が語る、転職はズバリ「金のためです」


OCEANS’s PEOPLE ―第二の人生を歩む男たち
人生の道筋は1本ではない。志半ばで挫折したり、やりたいことを見つけたり。これまで歩んできた仕事を捨て、新たな活路を見いだした男たちの、志と背景、努力と苦悩の物語に耳を傾けよう。三田紀房は大学卒業後、百貨店勤務を経て経験ゼロから30歳で漫画家デビューを果たした。そして当代きっての売れっ子のひとりに。その人生、いったい何があったのか。

今『ドラゴン桜2』を連載しているわけ

取材に伺ったのはある日の午後8時30分。ある作品の編集会議前の時間。
その作品とは、現在『モーニング』に連載中の『ドラゴン桜2』。ご存じの方も多いと思うが、前作『ドラゴン桜』は、経営破綻状態の落ちこぼれ高校の生徒、元暴走族の型破りな弁護士の指導を受けて東大を目指す物語である。2003年から’07年までモーニングで連載、’05年には阿部寛主演でドラマ化もされて大ヒットした。
その続編が今年からスタートしている。
前作の完結から丸10年を経て「2」に着手したのは「この時期しかないから」。実は、現行の大学入試センター試験に代わって2021年1月より「大学入試共通テスト」という新システムのテストが実施されることになっているのだ。

『ドラゴン桜2』1巻P40-41(C)三田紀房/コルク
「いつスタートするかを重視したくて。そのタイミングを逃すことのほうが、損失が大きいんですよね。’20年度の新テストに照準を合わせるのであれば、今年から連載を始めるしかないと思ったんです」。
主人公は前作同様、弁護士の桜木建二。かつて自らピンチを救った龍山高校が直面するさらなる危機に再び降臨し、「東大専門コース」を独自に開設。新たな現役東大合格への道を説く。それが、まさに現代ならではの驚きのやり方なのである。ヒントは「東大専門コース」には、教室がない……。
「’20年の制度改定に向けて、やはり大学受験の世界の話題が多くなりますのでね。どうしても社会的な関心も高まりますし、そこのタイミングに合わせて我々も何か一つ提案をしていこうということなので。今の時代ならではの仕掛けもいろいろ入れていきますが、本質的なところは10年前から変わってないのかな。大学受験への心構えとか日頃の勉強への向き合い方みたいなものは『ドラゴン桜』から一貫してると思いますね」。
実は驚きの手法を駆使するのは作中の桜木だけではない。三田さんが『ドラゴン桜2』を作り上げていくやり方も、おそらく日本初。
「作画を外部の制作会社にお願いしているんです。この後編集会議がありますが、僕のほうではストーリーの展開を考え、ページのコマ割りをしてセリフまで入れた“ネーム”と呼ばれるシナリオの段階まで作ります。そこから先は制作会社の作業になります。もともと『インベスターZ』という作品の背景を同じ会社に発注していたんです。それを、今回はキャラクターも含めて一貫生産してもらおうと」。
原作者と作画担当という関係性は、それこそ『あしたのジョー』の昔からあった。だがそれは映画でいうところの脚本家と演出家のようなもの。シナリオに対しどんな俳優を配し、どんな画面を作るかは演出家の領分。『ドラゴン桜2』の場合は、作画は外注だけれど、その方向性や品質まで一貫して三田さんがコントロールしている。
「まあそもそも『インベスターZ』の背景を全部デジタルで外注するっていうのも業界初の試みだったみたいですね。その経験で技術的な土壌も整ってきたので、同じ会社に今回は作画を全部お願いしようと。ただキャラクターを描くのは初めてでしたので、こちらの要求水準まで達するにはかなり時間を要しました」。
ただ、そこで重視したのが先に書いた「タイミング」。
「何をもって完成とするか……100%完成するまで待って世の中に出す、という考え方には僕は否定的なんです。やってるうちにいい感じに整ってくることもある。大切なのは、いつスタートできるかっていうことなんですよね。あくまでも絵としての完成度をとるのか、最適な時期に世に出して作品トータルでの成功をとるのかと言われると、僕は後者です」。
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そしてもうひとつの連載『アルキメデスの大戦』

三田さん、2015年から『週刊ヤングマガジン』で『アルキメデスの大戦』を連載を開始している。
『アルキメデスの大戦』2巻表紙(C)三田紀房/講談社
これがまた、重量級のお話なのだ。
舞台は1933年の日本。来るべきアメリカとの開戦を想定し、日本の国威を示すために世界最大級の戦艦・大和を建造しようとする大日本帝国海軍司令部に対し、異を唱える山本五十六は大和建造を阻止するために帝国大学100年にひとりの数学の天才と言われる櫂直(かい・ただし)を招集。数学者ならではの視点から大和建造費の矛盾を追及していく。
ちょうど’20年の東京オリンピックに向けての国立競技場の改修のニュースに触れて「太平洋戦争のときの戦艦大和の建造も、言ってみれば国家事業だったんだろうな……」と着想を得たという。ストーリーは、大日本帝国海軍の権威を重視する大艦巨砲主義の海軍造船中将・平山忠道らと、航空機の制空権掌握が海戦の大勢を左右すると考える主人公・櫂との大和建造をめぐる息詰まる攻防を経て、ダイナミックに進行。現在11巻に達している。
「『アルキメデスの大戦』は、いわゆる普通の漫画の作り方です。編集会議をしてネームを作り、アシスタントと共にアナログで絵を描いてデジタルで仕上げる、ということをしています」。
みなさんご存じのとおり、史実では大和は建造される。1941年ミッドウェー作戦に出撃し、1945年には撃沈されている。大和に関する一応のゴールはあるのである。きっとそこまで話ができているんだろうなと、尋ねてみると……。
「いや、決まってないですね(笑)。さて、これからどうしようかっていう感じなんです。そもそも先々まで考えて漫画を描いてきた経験はないです。『ドラゴン桜』も『アルキメデス』もその都度その都度、“来週の漫画をどうしようか?”っていう状態で描いています。ぼんやりと考えているのはせいぜい何話か先っていう状態ですね」。

ニコニコ笑いながら答えてくれた。大学受験制度や国家が巨額の予算を投じる事業と、非常に社会的に関心の大きなテーマを描きながら、先生ご本人はとても飄々とした佇まい。
7月から『インベスターZ』がテレビ東京系でドラマ化され、来年には『アルキメデスの大戦』の映画が封切られる。率直な感想を聞くと「うれしい!」と、やはりニコニコ。
「そういうふうにいろいろなメディアに変わっていくのは大歓迎ですね。本当にありがたいことだと思います。制作に関しては、ある程度事前に相談はされます。そこで多少の意見も言いますが、ドラマや映画などメディアが変われば、そこから先はそっちの現場で作るものだと考えています。映像の作り手のみなさんの裁量で作っていただくことになると思います。制作に入って以降、途中なのにこちらから口を挟むのは良くないですね。映像で見るっていうのはうれしいものですね」。
『アルキメデスの大戦』は“大作”および“大ヒット”なムードが制作前から漂っている。何せ監督は山崎貴。『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズや『寄生獣』などを手掛け、出自はVFX。ダイナミックな海戦や航空戦にものすごく期待大、で、主人公の櫂直には菅田将暉。稀代の天才数学者を演じるのに、エキセントリック感をほとばしらせてくれると絶対いい!
「そうですね、実は結構早い段階から山崎貴監督から映画化したいという声を頂いていまして、私としては完全にウェルカムです。作者という立場を離れて、どんなふうに映像化されるのか……“第三者的”にすごく楽しみにしているんです」。
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