そしてもうひとつの連載『アルキメデスの大戦』
三田さん、2015年から『週刊ヤングマガジン』で『アルキメデスの大戦』を連載を開始している。
これがまた、重量級のお話なのだ。
舞台は1933年の日本。来るべきアメリカとの開戦を想定し、日本の国威を示すために世界最大級の戦艦・大和を建造しようとする大日本帝国海軍司令部に対し、異を唱える山本五十六は大和建造を阻止するために帝国大学100年にひとりの数学の天才と言われる櫂直(かい・ただし)を招集。数学者ならではの視点から大和建造費の矛盾を追及していく。
ちょうど’20年の東京オリンピックに向けての国立競技場の改修のニュースに触れて「太平洋戦争のときの戦艦大和の建造も、言ってみれば国家事業だったんだろうな……」と着想を得たという。ストーリーは、大日本帝国海軍の権威を重視する大艦巨砲主義の海軍造船中将・平山忠道らと、航空機の制空権掌握が海戦の大勢を左右すると考える主人公・櫂との大和建造をめぐる息詰まる攻防を経て、ダイナミックに進行。現在11巻に達している。
「『アルキメデスの大戦』は、いわゆる普通の漫画の作り方です。編集会議をしてネームを作り、アシスタントと共にアナログで絵を描いてデジタルで仕上げる、ということをしています」。
みなさんご存じのとおり、史実では大和は建造される。1941年ミッドウェー作戦に出撃し、1945年には撃沈されている。大和に関する一応のゴールはあるのである。きっとそこまで話ができているんだろうなと、尋ねてみると……。
「いや、決まってないですね(笑)。さて、これからどうしようかっていう感じなんです。そもそも先々まで考えて漫画を描いてきた経験はないです。『ドラゴン桜』も『アルキメデス』もその都度その都度、“来週の漫画をどうしようか?”っていう状態で描いています。ぼんやりと考えているのはせいぜい何話か先っていう状態ですね」。
ニコニコ笑いながら答えてくれた。大学受験制度や国家が巨額の予算を投じる事業と、非常に社会的に関心の大きなテーマを描きながら、先生ご本人はとても飄々とした佇まい。
7月から『インベスターZ』がテレビ東京系でドラマ化され、来年には『アルキメデスの大戦』の映画が封切られる。率直な感想を聞くと「うれしい!」と、やはりニコニコ。
「そういうふうにいろいろなメディアに変わっていくのは大歓迎ですね。本当にありがたいことだと思います。制作に関しては、ある程度事前に相談はされます。そこで多少の意見も言いますが、ドラマや映画などメディアが変われば、そこから先はそっちの現場で作るものだと考えています。映像の作り手のみなさんの裁量で作っていただくことになると思います。制作に入って以降、途中なのにこちらから口を挟むのは良くないですね。映像で見るっていうのはうれしいものですね」。
『アルキメデスの大戦』は“大作”および“大ヒット”なムードが制作前から漂っている。何せ監督は山崎貴。『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズや『寄生獣』などを手掛け、出自はVFX。ダイナミックな海戦や航空戦にものすごく期待大、で、主人公の櫂直には菅田将暉。稀代の天才数学者を演じるのに、エキセントリック感をほとばしらせてくれると絶対いい!
「そうですね、実は結構早い段階から山崎貴監督から映画化したいという声を頂いていまして、私としては完全にウェルカムです。作者という立場を離れて、どんなふうに映像化されるのか……“第三者的”にすごく楽しみにしているんです」。
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