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2018.07.25

ライフ

YAMAHAに乗って考えるセカンドライフ。マンガ『雨は これから』

「大人のCOMIC TRIP」を最初から読む
働き盛りの男性にとってみれば、「人生のリタイヤ」はまだ当分先のこと。どんな生活が待っているのかわからない、というのが正直なところではないだろうか。そんな第二の人生の参考になりそうなのが、『雨は これから』(東本昌平/モーターマガジン社)。バイク専門誌である「Mr.Bike BG」にて連載中の作品だ。
『雨は これから』(東本昌平/モーターマガジン社)
本作の主人公は定年を間近に控えた57歳でテレビ局を辞めた松永(まつなが)。マンガ家になることを第二の人生の目標とし、出版社に持ち込んでみたりするものの、なかなか結果を出せない。そんな彼を癒やしてくれるのが、趣味のバイクである。
「この世の中に自分の割り込めるスキ間はない」と独白しつつ、その寂しさを埋めるようにバイクを走らせる。世の中への不満や怒り、憤りを抱きながらも、バイクで疾走する。その様子は悲哀を感じさせるものの、なにものにもとらわれない自由を体現しているようでもある。
定年をまっとうすることなく会社を辞め、マンガ家になるという目標もなかなか叶えられそうにない。そんな松永の状況は、決して幸福だとは言い難いかもしれない。しかしながら、彼にはバイクがある。人生に行き詰まってしまったとき、彼のように夢中になれるものを持っている人は強い。ただただ悲嘆に暮れるのではなく、趣味に没頭することで前向きに生きることができる。その姿からは、勇気さえもらえるだろう。
決して起伏に富んだ物語ではない。言うなれば、淡々とした純文学を読んでいるかのような読後感だ。バイクを通して出会った人たちと新たな営みを築いていく過程に、なんらかの予感がよぎることもあるが、繰り広げられるのはあくまでも静かな日常。しかし、それが心地良い。人生をリタイヤしたとき、こんな生き方をするのも面白そうだ。素直にそう感じさせてくれるのである。
もちろんバイク専門誌で連載されている作品だけあって、作中でのバイクの描写は非常にリアル。単行本冒頭には「YAMAHA SR400」をはじめとする、バイクの写真も収録されており、バイカーにはたまらない一冊になっている。
人生の先輩である、50代男性の日常を描いた本作。その後ろ姿に悲哀を感じるか、はたまた自由を感じるのか。本作を“人生の参考書”として、自身のライフプランに思いを馳せてみてもいいかもしれない。
五十嵐 大=文
1983年生まれの編集者・ライター。エンタメ系媒体でインタビューを中心に活動。『このマンガがすごい!2018』では選者も担当。



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