豊富な知識と経験を頼りに、深遠なる機械式時計の魅力を探求する男たち。そんな彼らが考える、素晴らしい時計とはいったいどんなもの?「筆舌に尽くしがたい」時計のことを、無理言って“尽くして”もらいました。
前編に続き、後編をお届け。
JACOB & CO
ジェイコブ/ツインターボ フュリアス
常識をブチ壊す、子供じみた発想と技術力に脱帽!
時計ジャーナリスト渋谷ヤスヒト さん Age 561962年、埼玉県生まれ。スマホや家電にも精通し、時計はスマートウォッチまでカバー。「GoodsPress」編集者時代の1995年から現在まで、スイス2大時計フェアや国内外の時計ブランドの工房取材を続ける。
何事にも限度はある。だがジェイコブは「どこにもない時計を作りたい」という時計師魂と究極の遊び心が結晶した超絶複雑腕時計でそんな良識を爽快なまでにブチ壊す。
スポーツカー型のケースに「ツイン トリプルアクシス シーケンシャル ハイスピードトゥールビヨン」と「ミニッツリピーター」そして「モノプッシュクロノグラフ」。
3つの複雑機構を統合してこんなケースに組み込むなんて、複雑機構を得意とする専門ブランドでも絶対に思いつかない。この筆舌に尽くしがたい、子供じみた(褒め言葉)発想と技術力は本当にスゴイ。
MORITZ GROSSMANN
モリッツ・グロスマン/ベヌー 37
好きな設計者から指名買い針の焼き色も筆舌に尽くしがたい
時計ジャーナリスト鈴木裕之 さん Age 461972年、東京都生まれ。「クロノス日本版」など時計専門誌の編集者を経てフリーランスとして活躍。スイス、ドイツを中心に工房取材を多く手掛ける。共著に『リシャール・ミルが凄すぎる理由 62』(幻冬舎)がある。
独立時計師だと“人柄に惚れ込んで買う”という場合も多いですが、大手メーカーに属する時計師でもその買い方はアリ。例えば、IWCのクルト・クラウス氏みたいな!?
今ならA.ランゲ&ゾーネやモリッツ・グロスマンで活躍してきたイェンス・シュナイダー氏がその好例。とにかくまじめで、頑丈なものが大好きで、仕上げも妥協なし。
そんな彼が最後に作った薄型小径機が「ベヌー 37」。加えてモリッツ・グロスマンといえば、針の出来が筆舌に尽くしがたい! すべて手作り、手焼きの針は、微妙な焼き加減でブラウンとバイオレットの中間調。ネジまで同色に揃えていてかなり“萌え”ます。
OMEGA
オメガ/シーマスター 1948 マスター クロノメーター センターセコンド
マニアも納得する忠実なディテールの再現
時計ジャーナリスト名畑政治 さん Age 581959年、東京都生まれ。20代後半からライターとして活動。時計、カメラ、アウトドアなど、男性の趣味を自らの膨大なコレクションを駆使して探求。時計専門ウェブマガジン「Gressive」編集長を務める。
第二次大戦後、スイス時計の興隆を支えた防水自動巻き腕時計の代表がオメガのシーマスター。その誕生70周年を祝って開発されたのが、このモデル。
ケース径が3mmだけ拡大されたが、質感はまさにヴィンテージ。コロンとしたフォルムやガッシリとしたラグ、シンプルで視認性の高いダイヤルなどマニアも納得でしょう。
そして、何よりうれしいのはサファイアガラス中心部の小さなオメガ・マーク。かつてのアクリル風防にもこれがあり、ガラス交換されていない証しとしてマニアはチェックしたものです。これは写真では絶対にわからない。
ぜひ、ショップで手に取って確認してほしいのですが、それまで店頭にあるかは……難しいでしょうね。
GLASHÜTTE ORIGINAL
グラスヒュッテ・オリジナル/シックスティーズ
一見して引き込まれてしまう、独創的なグリーンダイヤル
時計ジャーナリスト竹石祐三 さん Age 441973年、千葉県生まれ。大学在学中より雑誌編集に携わり、のちに商品情報誌の編集部で時計の記事を担当。現在はフリーのエディターとして、腕時計をはじめさまざまなプロダクトに関する編集・執筆を行う。
次のトレンドを予感させるほど、今年はグリーンダイヤルのモデルが充実していた。このように、ダイヤルに新しい表現手法が登場すると、色合いや質感を観察し、各モデルの完成度を比べてしまうのだが、この「シックスティーズ」からは一見して独創性が伝わってくる。
液体が激しく飛散したかのようなダイヤルの意匠は、1960年代に使用されていた鋳型を60トンもの圧力でプレスして出来上がったもの。
そこに、溶解液を浸すことで生み出される鮮やかなグリーンと、スプレーガンでの塗装と焼成によって得られる見事なグラデーション効果が重なり、レトロなデザインとの絶妙なマッチングを見せている。
※本文中における素材の略称は以下のとおり。
SS=ステンレススチール、K18=18金