「大人のCOMIC TRIP」を最初から読むここ数年、「猫」をモチーフとしたマンガが立て続けに登場し、ヒットしている。自由気まま、だけど時折人懐っこい表情を浮かべる猫。その愛らしい描写は、誌面を通して読者の心を和ませる。『おじさまと猫』(桜井 海/スクウェア・エニックス)も、そんな猫を描いたマンガのひとつだ。
本作はTwitter発の作品。作者である桜井氏が、初老男性と猫との物語を短編コミックとして投稿したところ、心温まる内容が注目を集め、閲覧数は3.2億超を記録したという。
物語は極めてシンプル。ちょっとブサイクですでに成猫になっていることからペットショップで売れ残っていた猫を、ひとり暮らしの男性・神田冬樹(かんだふゆき)が購入するところから幕を開ける。“ふくまる”と名付けられた猫と、それを可愛がるおじさん。ふたりの関係とその描写はなんとも愛らしく、読み手の心をほっこりさせる。
しかし本作は、ただ猫との日々を描いただけの物語ではない。読み進めていくと、「喪失感からの再生」というもうひとつのテーマに気がつくだろう。
仔細は描かれていないものの、どうやら神田は妻を亡くしているよう。時折挿入される妻との想い出や、仏前で語りかけている神田の姿は、ひどく物悲しい。そんな神田を癒やしてくれるのがふくまるなのである。
とはいえ、神田は寂しさを埋めるためだけに猫を購入したわけではない。悲しみから抜け出し、新しい日々をスタートさせるために猫と暮らすことを決めたのだ。たかがペット、と思う人もいるだろう。しかしながら、ときには動物が心の支えになることもある。愛情を注ぐことで、逆に愛情をわけてもらう。そんな相互作用は、人生に挫けそうになったとき、とても大きな“救い”になるのだ。
本作は1話が4ページで構成されている短い作りのため、気の向いたときにさらっと読めるのも特徴だ。そして、どのページを開いても、猫とおじさんの温かいやりとりが描かれている。彼らの姿から元気をもらうと同時に、猫との暮らしを“疑似体験”してみてはいかがだろうか?
五十嵐 大=文
83年生まれの編集者・ライター。エンタメ系媒体でインタビューを中心に活動。『このマンガがすごい!2018』では選者も担当。