もし、今日が人生“最後の晩餐”だとしたら、アナタは何をテーブルに運んでもらうだろうか? 最後と知らず「アレが食べられてれば……」と後悔するなんてまっぴらゴメン。食いしん坊オッサンたちよ、教えてください。「人生最後の日、どこの何が食べたいですか?」
日本文学界きってのイケメン作家で、あまりにもイケメンゆえに芥川賞を受賞出来なかったという都市伝説を持つ男・島田雅彦。今回の「
タラレバ最後の晩餐」のゲストである。
そんな島田さんが「最後は普段と同じものを食うんじゃないかと思って」と指名したのは、渋谷区幡ヶ谷の商店街にある「浜屋」という居酒屋だ。
待ち合わせ時間は14時。まだまだ太陽は高い位置にあるが、店内は既に酒呑みで賑わっている。暖簾をくぐった島田さんはいつもの奥のスペースに座り、まずは一杯目の定番「梅干し酎ハイ」(320円)を注文、五臓六腑を潤す。そして、ひと息付いたところで“最後の晩餐”のオーダーだ。
それは、店の看板メニューでもあり島田さんが必ず食べるという「刺盛り」。全国の漁港から直接仕入れているのでネタは新鮮だし、都内とは思えないほど値段も安い。刺身は単品ならだいたい500円程度、「刺盛り」で1000円程度というから驚きだ。
「梅干し酎ハイ」片手に新鮮な刺し身をつまんで「タラレバ最後の晩餐」スタート!
ちなみに島田さんは、“リアル最後の晩餐”について「本当に食べたいモノや行きつけの居酒屋にありつけるかは怪しいですよね。それこそミサイルで死ぬ確率は減りましたけど、そもそも現代人は“普通に死ぬ”のが難しいですから」と、世相とユーモアを交えて持論を語ってくれた。
そして「僕の頭の中には好きな店のいいとこ取りをしたエア居酒屋『まさっち』があるんですよ」と切り出す。そんな理想のエア居酒屋「まさっち」の多くは「浜屋」の“いいとこ”を反映しているそう。ということで、島田さん的・理想の居酒屋における3カ条を聞いてみた。
①酒呑みフレンドリーである。
②客が必ず注文するキラーメニューがある。
③顧客参加型の店である。
とのこと。
そんな3カ条を満たす「浜屋」は、この店が5年前に開店した直後に偶然見つけたそう。以来、かなりの頻度で通っている。
「地元の人が通う居酒屋に吉田類が来る前に行くのが好きで(笑)。この店も街を歩いていて偶然見つけたんです。来るたびに店の柱に「正」の字を付けてもらっていてね。本当は年に50回は来たいんだけど、今年はまだ15回くらしか来れてない……ペースを上げないと」と島田さん。
すると、酒のペースが上がり「梅干し酎ハイ」をおかわり。焼酎だけ足して梅干しはそのまま。2杯で梅干しの果肉を使いきるのが島田さん流だ。
次第に「刺盛り」も減ってきたので追加オーダーを。テーブルに運ばれてきたのは「まぐろのカマ焼き」。「浜屋」のキラーメニューである。
噛みごたえのある塩を利かせた肉。箸で骨の隙間をほぐすとドンドン出てくる肉。酒のアテに最高な一品はこのボリュームで620円! 驚きのコストパフォーマンスだ。
最後に、島田さんが「この店ではデザートと呼んでいます」といって注文したのが「エイヒレ」(340円)。肉厚でジューシー。デザートと呼ぶのも納得の品である。
こうして卓上の役者が揃い、2杯目の「梅干し酎ハイ」も呑みほしたところで、今度は日本酒を注文。島田さんが選んだのは福井の「白龍」(590円)だ。
一升瓶を手にしたスタッフが、枡の中に入れたグラスへとくとくと酒を注ぎ入れ、それはやがてコップから溢れて枡へと移っていく。そして、枡もなみなみになり、表面張力いっぱいでスタッフの手はピタリと止まり、注ぎ終わる。
まさに神業。
島田さんは顔をグラスに寄せ、酒を吸い、枡からグラスを抜く。続いて枡からも酒をすすり、溢れる心配がなくなったところで、グラスを置く。
なんと無駄のない美しい流れなのだ。さすがは文士にして吞兵衛。日本酒を呑む顔は最高の表情だ。
下世話な話題から政治のネタまで縦横無尽に会話を楽しみながら呑んだ2時間。トークはときにユーモラスに、そして鋭く……それはまるで島田さんの最新刊『絶望キャラメル』のタッチのようだった。
お会計を済ませても外はまだ十分に明るく、完全に2軒目へ向かう感じ。
あれ? これ“最後の晩餐”でしたよね(笑)。
浜屋03-5738-7255東京都渋谷区西原2-26-1営業時間/13:00〜21:00LO(鮮魚がなくなり次第終了)無休取材・文
ジョー横溝(じょーよこみぞ)●音楽から社会ネタ、落語に都市伝説まで。興味の守備範囲が幅広く、職業もラジオDJ、構成作家、物書き、インタビュアーetc.と超多彩な50歳。ラジオのレギュラー番組として「The Dave Fromm Show」(interFM897)、著書に『FREE TOKYO〜フリー(無料)で楽しむ東京ガイド100 』など多数。