知らなきゃ男が廃るが、知ってりゃ上がる。気にするべきは、顔のシワより脳のシワ。知的好奇心をあらゆる方向から刺激する、カルチャークロスインタビュー。
もともとは40代のときに趣味で書いた本だという。「ベッドシーンを書いていると筆が冴えたので、ならば全編エロシーンの本を書こう思って」と微笑みながら話すのは原作者の石田衣良氏。2016年に舞台化され、生々しいセックス描写が話題をさらった『娼年』が、今度は映画になって公開される。
’01年発表の小説が近年再評価されていることに当の本人は驚きつつ、「これを書いた当時は“草食系男子”なんて言葉もなかった。けれど、その後に多くの男が草食化・絶食化していく時代になり、反面教師的な意味で、今の時代に刺さるものになったんじゃないですかね」と分析する。
主人公の“娼夫”リョウが、さまざまな事情と欲望を抱えた女性たちをセックスで癒やすセンセーショナルな内容は、ともすれば不倫をはじめ道徳的なことに厳しい昨今の世相と逆行するようにも思えるが……。
「不倫叩きのベースにあるのは嫉妬ですよね。自分の欲望が満たされないことで、私は傷ついているのに、あの人はうまいことやってズルいという。心の中から湧き出てくる欲望を『これは表に出してはいけない』と頭で完結させて、身体が置き去りになっている弊害です。みんな本当は秘めた欲望を持っているのに」。
その秘めたる欲の深さ、性愛は大いなる文学的モチーフであり、作家の創作欲を掻き立てるという。
「僕にとってエロスは大きなテーマです。日本の小説というのは、源氏物語をはじめ、谷崎潤一郎など、元来は性愛小説がメインでしたよね。けれど今の時代に人気があるのは、警察もの、時代もの、殺人事件ものといったジャンル。そういう題材を書かずに現代小説を書いて生きていくのはとても大変なことなんですけれど、僕は60歳、70歳になっても執筆テーマのひとつとしてエロスは持っていたいなと思っています」。
そう言葉を紡ぎながら、ときおり本誌をめくり、「年を取ると、ルックスとか関係なく、オシャレでセンスのいい人がモテるんだよね」と言い、“モテたい願望”をチラリと見せる。そんな洒脱で大人の余裕を感じさせる彼に「格好いい大人とは?」とたずねると、「世の中のあらゆることを、自分事として考えられる人でしょう」と即答した。
「この世界で起きている何事も他人事で済ませるのではなく、自分のこととして捉えられる想像力と度量を持つ人は格好いいと思います。人は大きく変わりません。殺人事件に対して『悲惨だったよな』で済ませるのではなく、少し思いを巡らせる。あの犯人は、あの被害者は、自分だったかもしれない。そう考えられる人は、素敵な大人ですよね」。
『娼年』
監督:三浦大輔/原作:石田衣良/出演:松坂桃李、真飛聖、冨手麻妙、猪塚健太、桜井ユキ、小柳友ほか/配給:ファントム・フィルム/4月6日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほかにて全国ロードショー
http://shonen-movie.com会員制ボーイズクラブのオーナー、静香(真飛聖)にスカウトされ“娼夫”となったリョウ(松坂桃李)。彼はさまざまな女性とのセックスを通して人間の欲望の深さと多様さを知り、自らも成長していく。本編の半分以上を占める生々しいセックスシーンが衝撃的な、鬼才・三浦大輔監督による愛のドラマ。
PAK OK SUN(CUBE)=写真 美馬亜貴子=取材・文