機構の凄さや稀少性といった一般的な価値観では測りきれない魅力を持つ腕時計。それがミリタリーウォッチである。
事実、街角を行くセンスのいい大人の腕にはかなり高い確率で、ミリタリーウォッチが巻かれている。
そこで、世界を代表するモノ好きファッションデザイナー、ナイジェル・ケーボンさんに聞いてきた。「なんで男はミリタリーウォッチに惹かれるんですか?」
アウトドアやミリタリーのヴィンテージウェアのコレクターとして知られるファッションデザイナー、ナイジェル・ケーボンさん。御年69歳。
英国北部のニューカッスルで生まれ育ち、ファッションに興味を持った1960年代からコツコツ蒐集してきたそれらの量は膨大で、それこそガラクタから“博物館” 級のアイテムまでわんさか。
そんな彼だからこそ「時計もさぞかしたくさん持っているんだろうな」と話を聞いてみると、なんと2本しか持っていないという。しかも、どちらもミリタリーウォッチなんだとか。
「エクストリームな環境で確かな情報を得るためのツールとして進化したミリタリーウォッチは、使いやすく、タフで、邪魔にならなくて、武骨で、すべてのディテールに意味があって、歴史もある。モノ好きにとってこれ以上魅力的なものなんてないよ(笑)。と言いつつ、時計は着けるのが煩わしくてずっと興味がなかったんだけどね。でも、“コレならいいかも”と初めて買ったのがIWCの『パイロット・ウォッチ』。無駄を削ぎ落としたデザインが気に入っていて、出会いは確か……1990年だったかな」
以来30年、毎日着けているのだという。ちなみにこれは左手専用で、 針はいつも故郷英国の時間に合わせてる。で、右手に着けているのは?
「1967年代のヴィンテージ。LEMANIA(レマニア)というブランドのもので、英国空軍に納入していたアイテム。“ボタン”がゴチャゴチャ付いていないワンプッシュ・クロノグラフがクールだと思ってさ。そしてダイヤルに刻印された英国空軍の象徴『ブロードアロー』マーク。矢印みたいなコレが僕の大好物(笑)。女性にはわからないかもしれないけど、男だったらわかるよね? こういうところに固執しちゃうところ」
5年前に日本で手に入れたという1本について楽しそうに話すナイジェルさん。これは右手専用で、滞在している国の時間にセット。「 超アナログなデュアルタイムさ(笑)」と、使い分けについて教えてくれる。
しかし、これで持っている時計はすべて。そのことについては「簡単さ。この2本を超える魅力的なアイテムと出会っていないだけ。でも、タイメックスと一緒に作ったこれは、3本目のコレクションに迎え入れるのに相応しい出来だね」と、小さなコットンキャンバス製の袋を取り出した。
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