たのしい缶詰ライフ vol.6(番外編)
オッサンの楽しみ、手軽な晩酌のお供である缶詰。その魅力は、開けるだけで料理が一品増やせる、そんな利便性の高さだけではない。近頃はインテリアにもなりそうなオシャレなデザインの缶詰が登場するなど、男のコレクション心をも、どこかくすぐる存在となっている。そんな缶詰の魅力に浸るこの連載。お気に入りの一杯を携えて、お付き合いいただきたい。連載最終回となる今回は、番外編として同じ保存食つながり、缶詰の元ともいえる「瓶詰め」の自作にチャレンジしてみたい。
「たのしい缶詰ライフ」を最初から読む凝り性の男性であれば、趣味が高じた先が「自作」になるのは当たり前(?)。カレーに凝り出せばルウを使わずイチから作りたくなるように、自分で作って自分で詰める「My缶詰」を作りたくなることがあるかもしれない。
しかし、いざ自作となると専用の空き缶、道具が必要になると敷居が高いのが現実。
ならば、缶詰の前身にあたる「瓶詰め」作りに挑戦してみてはいかがだろう。瓶は専用のものでなくても構わない。それこそ、すでに食べ終わった瓶詰めの空き瓶を使えば良いのだから。
「保存容器に最適なのが臭いがつきづらく、熱や酸にも強いガラス瓶。いくつか種類がありますが、瓶詰め用途として万能なのが市販のジャムや佃煮などにも使われているねじ式フタの瓶です。再利用でよいのですが、フタのパッキンが傷んでないか、内側がサビていないかは確認してください」。
そう教えてくれたのは、瓶詰めレシピのベストセラー書を持つフードコーディネイター、料理家のこてらみやさん。今回は、こてらさんに瓶詰めを作る方法と、初心者でも簡単に作れる、つまみレシピを紹介いただいた。
味よりもなによりも。瓶詰め作りは消毒を完璧に
瓶詰めの一番の敵が雑菌やカビ。消毒した清潔な容器を使わないと、内部で繁殖して腐敗の原因に。食品を詰める瓶は必ず消毒した清潔なものを使う必要がある。
・方法その1 アルコール消毒ホワイトリカーなど35度以上のお酒や、食品用アルコールをキッチンペーパーに含ませて瓶の内部を拭く。もしくは、アルコールを瓶に入れてフタをし、振って全体になじませてから流し出し、その後乾燥させる。
・方法その2 煮沸消毒 ※オススメ一番確実なのがこちらの煮沸消毒。大きな鍋の底にふきんを敷き、その上に瓶を並べて水を入れ、中火でゆっくり沸騰させ、10分ほど火にかけて消毒する。消毒後、取り出したら清潔なフキンの上に口を下にして置き、自然乾燥させる。この時、フタやパッキンも合わせて消毒するが熱で変形しやすいため20秒ほどで取り出しておくこと。
もちろん、まな板、包丁など調理器具にも雑菌は付着している。当然これらも、消毒されたものを使うこと。ただ瓶や器具の消毒を心がけても、家庭では空気中に漂う雑菌の混入は避けられないから過信は禁物。
なお、ジャムなどでは瓶内の空気を抜く「脱気」という作業を行えば、常温保存も可能になるが、ここでは割愛。また、特に長期保存を考えない、すぐ食べきるつもりであれば他の食器と同程度の清潔さを心がければ良いので、そこまで難しく考える必要はない。
ただいずれにせよ、自作した瓶詰めは、冷蔵保管するのが、基本と心得たい。
初心者OK。ツマミにおすすめ「瓶詰めレシピ」
なお「『瓶詰めだから』という点で初心者向け、上級者向けというものは特にない」とのこと。料理としての難しさがそのまま瓶詰めとしての難易度になるようだ。
ただ、市販品の瓶詰めで食べ慣れているものであれば、味のベースを舌が覚えているので真似しやすい、作りやすいという面はある。何で味付けをしているかは、瓶のラベルを見れば良いのだ。
もっとも、全く同じ材料にしようと無理に材料を揃える必要はない。「調味料やスパイスなどは家にあるもので代用して、オリジナルの味を追求するのも自作瓶詰めの醍醐味」というのがこてらさんからのアドバイス。
さて、以下に2つ、こてらさんによる料理初心者の方でも比較的作りやすい瓶詰めレシピを紹介する。これも同じように調味料から火加減まで、あくまで目安と考えること。自分の舌を信じて「自分の味」を見つけることが大事なのだ。
【牛のしぐれ煮】・材料
牛切り落とし肉 150g
生姜 2片
砂糖 大さじ1〜2
日本酒 大さじ4
醤油 大さじ2
・作り方
1 牛肉は1cm幅に切る。生姜はせん切りにする。
2 鍋に砂糖と日本酒を入れて火にかけ、砂糖を煮溶かす。
3 生姜と牛肉を入れて混ぜながら煮る。
4 肉に火が通ったら醤油を入れて強めの中火で汁気を飛ばすように炒り煮する。汁気が少し残るぐらいで火からおろし、粗熱が取れたら清潔な瓶に入れて冷蔵庫で保存する。2週間ほどもつ。
※『春夏秋冬の魔法のびん詰め』(三笠書房)より
<こてらみやの「つまみアレンジ」>「簡単に作れて、いろいろと使い回しが効くので瓶詰めに初めて挑戦する男性にオススメ。そのままでもつまみになりますが、焼いた野菜にトッピングするのもいいですね。
また、小腹も満たしたいというときにはこれ。ふかして潰したジャガイモにまぜて、油を吸わせたパン粉をまとわせてオーブントースターで色がつくまで焼けば、揚げずにコロッケができちゃいます。それが面倒であれば、同様にジャガイモと混ぜたものを耐熱皿に入れて、油を吸わせたパン粉をふりかけて焼いてしまってもOKです」。
【砂肝のコンフィ】・材料(作りやすい分量)
砂肝 200g
オリーブオイル 適量
<A>
塩 6g
白ワイン 大さじ1
オールスパイス・こしょう(粒) 各10粒
ニンニク 1片
・作り方
1 砂肝は銀皮(白い筋)を包丁でそぎ取る。ビニール袋に砂肝と<A>を入れ冷蔵庫で一晩寝かせる。
2 1をザルにあけて水洗いする。キッチンペーパーで水気を取る。
3 鍋に砂肝を入れ、オリーブオイルをひたひたに注ぎ、中火にかける。砂肝から細かい泡が立ちはじめたら100度のオーブンで約2時間加熱する。
4 砂肝と鍋に残った油を(底の汁と沈殿物は入れない)瓶に入れる。冷蔵庫に入れれば2週間ほどもつ。
※オーブンが無い、あるいは100度に設定できない場合は、コンロのごく弱火で2時間ほど煮る。
※『365日、おいしい手作り! 魔法のびん詰め』(三笠書房)より
<こてらみやの「つまみアレンジ」>「手間はかかりますが白い筋は硬いので取るか、細かく切れ目を入れるのが砂肝料理の基本。でも、面倒だし気にしない、ということであればワイルドにそのままでも構いません。おつまみとして食べる際は、刻んだ長ネギとごま油かラー油で和えるといいですね。
小腹が空いたときは、薄切りにしたものをお好みの野菜と一緒に漬け油でさっと炒めて、茹でたパスタとあえれば『砂肝パスタ』の完成。なお、銀皮(白い筋)を取った場合は無駄にせず、唐揚げにすればつまみがもう1品増えてお得です」。
どちらも、今から晩酌が楽しみになるようなレシピだったのではないだろうか。では最後に、37.5歳の男性に向けていただいたこんなアドバイスを紹介して終わりとしよう。
「男の人は良くも悪くも凝り性の面がありますよね。結果、『俺の味』を追求しようと足し算であれもこれもと入れすぎてしまうきらいも。もちろん、本人にとってそれが良ければ構わないのですが実は引き算も大事なのです。
シンプルな味付けにとどめておき、お酒、他のつまみとのバランス、気分に合わせて食べる時にひと味加えて完成させるようにしておけば、利用の場面も広がるのでオススメです」。
自分好みの酒を手に、自分好みの味を楽しめるのが自作瓶詰めの良いところ。アドバイスをもとに、チャレンジしてみてはいかがだろうか?
※写真の料理はこてらさんのレシピを参考に筆者が独自再現したものです。こてらさんの意図したものと必ずしも一致しない場合があることを承知おきください。
【識者著書】
【取材協力】
こてらみや(フードコーディネーター、料理家)
京都・祇園生まれ。京料理、おばんさいに接して育つ。上京後、フードコーディネーターのアシスタントを経て独立。スパイスや香味野菜など「香り」をいかした料理に定評がある。料理に関する著書多数。2018年4月には、毎日のごはん作りが楽しくなる「おかずのもと」をまとめた、『おかずのもと アレンジ自在で毎日おいしい!』(翔泳社)を刊行予定。こてらみやブログ「オサルノビタミン」
http://blog.livedoor.jp/osarunobitamin/Instagram:
@osarumonkey文・料理作成=宇都宮雅之