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2018.01.07

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マイホームを購入する人は、国策的に優遇されている?


「不動産の噂の真相」を最初から読む
不動産の噂の真相Vol.10
オーシャンズ世代にとって“避けては通れない未来”のひとつに、「住まいをどうするのか」というテーマがある。結婚し、子どもが生まれ、やがて巣立っていく――そんな人生の物語をつむぐ舞台=住まいについて、実は私たちはそこまで深い知識を持っていない。なんとなく周りの意見やメディアの見出しやウワサ話に踊らされてはいないだろうか。この連載では、元SUUMO新築マンション編集長が、世の中に出回っている“不動産のウワサ”について徹底検証。信じるも信じないも、あなた次第です。

住宅を購入すると税金が軽減されるが、賃貸にはほぼ何の優遇もない

家は買ったほうがトクか、賃貸のままのほうトクか? マイホームの購入を検討する人なら誰もが一度は疑問に思うポイントだろう。多くの人は、買う場合の住宅ローン返済額や管理費などと、賃貸の場合の家賃や更新料、礼金などの数十年分を比べるだろうが、実は、そうしたシミュレーションにはあまり意味がない。というのは、買う家の「価格」と賃貸の「家賃」をそれぞれいくらに設定するかで結論は変わってしまうし、特に賃貸はこれから数十年間に何度引っ越しをするかわからないなど、不確定要素が多すぎるからだ。
それよりも、住宅の購入と賃貸を比べるならば、絶対に押さえておきたいことがある。それは、マイホームを「購入する人」は国策的に優遇されているという現実だ。具体的には、マイホーム購入者は税金が軽減される制度が各種用意されているのに対し、賃貸に住む人にはほぼ何の優遇もない。理由は、住宅の購入は賃貸と比べて経済への波及効果が大きく、国策として住宅の購入にインセンティブをつけて景気対策をしてきた背景があるからだ。一方だけ、住宅にかかるお金とは直接には関係のない、所得税や住民税が軽減される訳だから、購入と賃貸の比較ははじめから公平ではない、と理解しておく必要がある。
マイホーム購入に適用される代表的な優遇税制に「住宅ローン減税」がある。住宅ローン使って一般的な住宅を購入すると、当初10年間に渡って「毎年末のローン残高の1%相当額(=控除額、最大40万円)」が納めた所得税から控除(還付)されるという制度だ。ローン残高が4000万円なら、その1%の40万円が年間の控除額となる。納めた税額以上に税金が還付されることはないが、控除額より所得税が少ない人は住民税の一部からも控除される。年収が500万円以上なら所得税と住民税を合わせれば、おおむね年間40万円以上納めることになるで、ローンの借入額にもよるが10年間で最大400万円の税還付を受けられる可能性がある。
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マイホームの買い換えで損失が出たときの「譲渡損失」減税も見逃せない

他にも、マイホームを買い換える場合に、元の家の売却で損失が出たときは、損失額を最大4年間に渡って所得と相殺できる制度もある。損失額は正確には「譲渡損失」と言い、「譲渡損失=売却価格-購入価格-購入諸費用-売却諸費用」で計算できる。簡単に言えば、購入と売却を通じて、入ってきたお金から出ていったお金を引いた額だ。元の家に住んでいる間に払ったローンの利息や固定資産税は損失には含まれないが、今の低金利なら当初10年間は先に説明した住宅ローン減税でほぼチャラになる。つまり、購入から10年に限ればこの計算式による譲渡損失が、実質的な住居費負担といえる。
たとえば、価格4000万円(購入諸費用170万円)で買った家を、10年後に3200万円で売却(売却諸費用110万円)する場合、3200万円-4000万円-170万円-110万円=-1080万円が譲渡損失となる。これを所得(年収ではなく、年収から各種控除を引いた額)と相殺できるので、所得が500万円なら、2年間は所得ゼロ扱いとなり、なんと2年分の所得税と住民税(所得割)が無税になるのだ。それでも相殺しきれない80万円は3年目の所得から差し引いてその年の所得税や翌年の住民税が計算されるので、やはり減税になる。
この例のように、10年も住めば売却額が購入価格の8割程度に値下がっても不思議ではなく、家の買い換えで譲渡損失が1000万円超に及ぶのは決してレアケースではない。ただ、諸費用を含めて1080万円の損失も10年で割れば、1年あたり108万円、月額なら9万円で家賃レベルでしかない。いや、価格4000万円クラスの家を賃貸したら、家賃9万円では済まないだろうから、4000万円の家を買って10年後に1080万円の損失を出しても、結果的に10年間の実質的な住居費負担は同等の家を賃貸するより軽く済むことになる。それなのに、買い換えた人は2年分の所得税+住民税+αの減税を受けられて、賃貸に住む人は減税を受けられないのだ。
これらの現行住宅税制は、賃貸派の人にとってきわめて不公平と言えるが、国策である以上、文句を言っても仕方がない。引っ越しの自由度やローンを抱えない気楽さをとって賃貸を選ぶのもいいが、いっそマイホームを買って国策を味方に付けたほうが合理的という考え方もある。どちらを選ぶにしても、家賃とローン返済の表面的な比較だけでなく、税金という視点を忘れずに検討すべきだろう。
取材・文/山下伸介
1990年、株式会社リクルート入社。2005年より週刊誌「SUUMO新築マンション」の編集長を10年半務め、のべ2700冊の発刊に携わる。㈶住宅金融普及協会の住宅ローンアドバイザー運営委員も務めた(2005年~2014年)。2016年に独立し、住宅関連テーマの編集企画や執筆、セミナー講師などで活動中。
 

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