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乳幼児や小中学生の子どもを持つ親のみなさんは、今年の夏休みをどう過ごしただろうか?
旅行に行ったりキャンプをしたりと、家族サービスに精を出した人もいれば、子供と過ごす時間が十分に取れず、「子供に良い経験をさせられなかった」と考えている人もいるかもしれない。だが、過度の心配はご無用だ。
2000年刊行のロングセラーで、この夏に新刊として改題・文庫化された『子育ての大誤解――重要なのは親じゃない』の著者にして、アメリカの教育研究者、ジュディス・リッチ・ハリス氏は、「子育てにおいて、親の努力はほとんど無駄になる」という。ハリス氏が、子どもがどんな大人に育つかはすべて親の責任であるという「子育て神話」を一刀両断する。
子育て神話
まずは、私の実体験から。
学生時代、私は米国のマサチューセッツ州ケンブリッジで下宿をしていた。下宿の大家はロシア人夫妻で、3人の子供たちとともに1階に住んでいた。夫妻はお互いに対しても、子供たちに対してもロシア語で話した。彼らは英語が下手で、ロシア訛りが強かった。
ところが彼らの子供たちはというと、まったく訛りのない、近所の子供たちが話すのと同じボストン゠ケンブリッジ・アクセントの英語を流暢に話していた。外見も近所の子供たちとそっくり。親のほうはその洋服のせいなのか、身ぶり顔つきのせいなのか、どこかに「外人くささ」が漂っていた。しかし子供たちはまったく外国人には見えない。ごく普通のアメリカの子供だった。
「愛情をこめて抱きしめると、優しい子供になる」「寝る前に本を読み聞かせると、子供は勉強好きになる」「体罰は子供を攻撃的な性格にする」
世間でまことしやかにささやかれる、これらの言説。その裏にある考え方を、私は「子育て神話」と呼んでいる。それは、親の育て方が子供の人生を決めるという考え方だ。子育て神話によれば、子供に文化や知識を伝えるのも、将来、社会で一人前の大人として認められるよう準備を整えさせるのも、すべて親の役目となる。だから親は必死で「良い親」になろうとする。その心理的負担はとても大きい。
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