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2017.07.23

たべる

僕にとってレモンサワーは「おきざりにした悲しみ」なんです

レモンサワーという名の愉悦 vol.2
大人になった今だからこそ、味わうことができる愉悦。ウェブオーシャンズではこれまで、スナック、ホッピーをテーマに、その奥深い嗜みのノウハウを紹介してきた。そして今回のテーマは「レモンサワー」である。どこの店にでもあるが、そのシンプルさゆえに、嗜みの奥深さは計り知れないという。全6回でレモンサワーの魅力の真髄に迫りたい。
「レモンサワーという名の愉悦」を最初から読む
レモンサワー連載、第2回目である。初回はレモンサワーへのさまざまな思いを綴った。とはいえ、僕はその魅力に目覚めたばかり。世間にはレモンサワーを愛し続けている先輩がたくさんいるはずだ。
ここからは、彼らが「ベストの1杯」とお墨付きを与えるレモンサワーをともに飲みながらトークしたい。栄えあるトップバッターは落語関連の書籍を刊行する出版社、「うなぎ書房」に勤務する中川凡さん(57歳)。
「いやあ、あのレモンサワーはぜひ飲んでいただきたい。衝撃的な美味さですよ」。興奮気味に語る中川さんが案内してくれたのは東京・四谷三丁目の「焼きとん あかし」。
おっと、僕が好きな外席もある
さっそく生レモンサワー(450円)を注文。ほどなくして運ばれてきたジョッキはキンキンに冷えている。
長渕剛はレモンを持つのを拒んだ
店長いわく、「凍らせたキンミヤ焼酎、いわゆる『シャリキン』をホッピービバレッジから出ているレモンハイで割っています。あちこち飲み歩いた末に東十条の『埼玉屋』のレモンサワーが一番美味しかったので、それを真似しました(笑)」。
氷なし、ジョッキの縁に塩というのも「埼玉屋」流
ひと口飲むと、「おお、これは美味い」。思わず声が出た。
埼玉屋の生レモンサワーも飲んだことがある。たしかに美味しい。しかし、「真似した」とはいうものの、やはりまったく同じにはならない。どこか違うのだ。
超スッパイ系
レモンの酸っぱさが舌の上に広がり、その後に焼酎のアルコールがガツンとくる。脳の反応を順に追うと、ジョッキを持って「冷たい」、ひと口飲んで「しょっぱい&酸っぱい」、濃い目の焼酎で「あ、お酒だ」となる。
あらためて周囲を見回すと半分以上の客が、この生レモンサワーを飲んでいた。中川さんが「ベスト1」に推す理由がわかった。
こちらがホッピーのレモンハイ
「僕、吉田拓郎が好きなんですが、ここのすぐ近くに拓郎しかかけないバーがあって。ただ、マスターが美容室のオーナーなので、そっちの仕事を終えてから店を開けるのが20時とか21時。それまでのつなぎとしてフラっと入ったのが『あかし』です」
前のマスターが3年前に逝去。常連だった今のマスターが店を引き継いだそうだ。
よく見るとレモン柄のシャツだった
さらに、ここは焼きとんを始めとするフードも美味しいという。
「がっつり食べるというよりは好きなものをちょこちょこつまめるかんじ。酒飲みにはちょうどいいんです」
レバー1本100円、パクチーサラダ300円、かにみそバター200円
中川さんにとってレモンサワーとは何かと聞いてみた。
「うーん、『おきざりにした悲しみ』ですかね」
あら、ずいぶんロマンチックな回答だ。会計を済ませると「せっかくだから拓郎バーもご案内しますよ」とおっしゃる。お伴します。
バーの名前は「伽草子(おとぎぞうし)」
拓郎が1973年にリリースしたアルバム名とのこと。店内にはミニステージがあり、常連客が自由気ままに演奏していた。
右がマスターのロマンさん
「おすすめは拓郎の曲名が付いたオリジナルカクテルです」と言われて「人間なんて」を注文。
この組み合わせでなぜ「人間なんて」なのかは聞き忘れた
ウォッカのライチジュース割り
これはこれで美味い。じつは「あかし」で生レモンサワーを4杯ずつ飲んでいるので、ふたりともけっこう酔いが回っている。そのとき、中川さんが言った。
「『おきざりにした悲しみは』っていう拓郎の曲があって、僕、これが一番好きなんです」
帰りの電車の中で歌詞を検索して合点がいった。『おきざりにした悲しみは』はこんな歌詞から始まる。
「生きてゆくのは あゝみっともないさ あいつが死んだときも おいらは飲んだくれてた」(※)
さて、次はどんなレモンサワーに出会えるだろうか。
 
(※)『おきざりにした悲しみは』(作詞:岡本おさみ/作曲:吉田拓郎)の歌詞より一部抜粋
取材・文/石原たきび


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