あまり考えたくはない未来の「もしも」が、人生には必ずある。夫婦のこと、子供のこと、両親のこと、会社のこと、健康のこと、お金のこと、防災のこと――心配しだすとキリがないけれども、見て見ぬフリをするには、僕たちもそう若くはない。今のうちから世の中の仕組み、とりわけセーフティネットについて「知っておくこと」は、自分の大切な人たちを守るためにも“大人の義務教育”と言えよう。37.5歳から考える未来の「もしも」、全6回にわたり「家族の介護」について考えていきたい。
「37.5歳のもしも……家族に介護が必要になったら?」を最初から読むケアマネジャーは、担当者によって“強み”が異なる
家族に介護が必要となったときに、頼りになるのがケアマネジャー(略称ケアマネ)の存在。「介護保険におけるツアーコンダクターのような職種」で、適切な介護の支援を受けるために調整役になってくれるケアマネは、本人・家族にとって重要なパートナーといえるでしょう。そんなケアマネも、担当者によってそれぞれ強みが異なります。そこを見極めることで、さらに強固なパートナーシップが結べる可能性が高まります。そのためにも、初回面談でどんなことを話すのかが大切です。
まずはケアマネ資格がどのようなものかを知っておくといいでしょう。そもそもケアマネとは国家資格ではありません。都道府県から任用される公的資格となります。ケアマネを受験するための要件として、医療福祉系の国家資格を持っていて実務経験がある人、国家資格はないけど介護現場での実務経験がある人の大きく2つの流れがあります(2017年現在)。
医療福祉系の国家資格を具体的に挙げると、医師、薬剤師、看護師、保健師、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、社会福祉士、介護福祉士など20種類以上があるのですが、ざっくり言えば1)医療分野に強い人 2)社会保障制度に強い人 3)介護現場に強い人の3タイプに分かれると考えると理解しやすいでしょう。同じケアマネ資格でも、その人の元々の職種が違えば、当然強みも異なるわけです。
初めから「私にお任せください」というケアマネは、怪しい
本人・家族がケアマネと対面するのは、基本的に介護認定が下りてから。要支援ならば地域包括支援センター、要介護ならば居宅介護支援事業所のケアマネとなるのが一般的ですが、どちらにせよ担当となったケアマネから「ご自宅に訪問したいので、日程調整をお願いします」と連絡が入ることで、お付き合いが始まるケースが多いです。
初回面談のときには、介護認定の申請の際に提供した情報は、ケアマネにすでに共有されています。ケアマネには守秘義務があるので個人情報の漏えいを心配することはないのですが、本人・家族にとってはあまり他人に知られたくない情報もあるかもしれません。ケアマネとのお付き合いには、なによりお互いの信頼関係の構築が重要です。
また、ケアマネが介護支援の専門職とはいえ、ケアマネが決めたことに家族がなんでも従うというのは間違いです。ケアマネジメントの基本は「本人・家族の自己決定」。初回面談では、ケアマネは中立的な立場で本人・家族の意向を確認し、どんな課題があるのか、どんな支援を必要としているのかを引き出していくよう指導されています。もし「私に任せなさい」「私の言う通りにすれば良い」という態度のケアマネがいたら、ちょっと疑ってかかってよいでしょう。
ケアマネと相談者である家族は、あくまで対等な立場であるべき
相談する側の本人・家族の中には、ケアマネは何でも問題解決をしてくれる人、と思う方もいるようですがそれも間違いです。ケアマネジメントは、本人・家族の問題解決力の向上を目的としており、それを一緒に考えていくことがケアマネの役割とされています。ケアマネと相談者はあくまで対等な立場なのです。
そう考えていくと、ケアマネとの初回面談では、あまり構えずに本人・家族のありのままの現状を伝えるのが良いでしょう。すぐに「施設を探してください」と訴える方もいますが、命にかかわる緊急事態でなければ、問題解決を急ぐよりも課題やニーズの整理をケアマネと一緒に協働していくことをおすすめします。そういったやりとりから、お互いの信頼関係は醸成されていきます。
冒頭にケアマネは担当者によって強みが異なると書きましたが、初回面談のときケアマネさんに「元々どんな仕事をされていたのですか?」と聞いてみてください。医療畑なのか社会福祉畑なのか介護畑なのか。その背景を知っておくことで、逆に相談する側がそのケアマネの強みを引き出すことができるかもしれません。
次回は「どうしても合わないケアマネは、交代してもらえるの?」について、書いてみたいと思います。
取材・文/藤井大輔
リクルート社のフリーマガジン『R25』元編集長。R25世代はもちろん、その他の世代からも爆発的な支持を受ける。2013年にリクルートを退職し、現在は地元富山で高齢者福祉事業を営みながら、地域包括支援センター所長を務める。主な著書に『「R25」のつくりかた』(日本経済新聞出版社)