あまり考えたくはない未来の「もしも」が、人生には必ずある。夫婦のこと、子供のこと、両親のこと、会社のこと、健康のこと、お金のこと、防災のこと――心配しだすとキリがないけれども、見て見ぬフリをするには、僕たちもそう若くはない。今のうちから世の中の仕組み、とりわけセーフティネットについて「知っておくこと」は、自分の大切な人たちを守るためにも“大人の義務教育”と言えよう。37.5歳から考える未来の「もしも」、全6回にわたり「家族の介護」について考えていきたい。
もしもの前に知っておきたい、介護保険制度とケアマネジャーという職種
はじめまして、藤井大輔と申します。40歳をきっかけにリクルートを退職し、地元の富山県に戻って高齢者福祉の業界に飛び込みました。現在は地域包括支援センターの所長をしています。まだまだ介護の世界では未熟な私ですが、未熟だからこそ、素朴な疑問や初歩的なご相談に直面しているなかで「どうして介護保険はこんなルールになってるんだろう?」「これは初心者には分かりづらいよなぁ」と思うことが日々あります。この連載では、介護の初心者とプロの橋渡し的な役目ができればと、筆を執りました。
私が介護福祉業界に入ってみて驚いたのが、たくさんの専門職種があること。介護のプランをつくる人から、介護サービスを実施する人、その効果を評価する人など、かなり細かく分業されています。そんななか、特殊だなと思ったのが「ケアマネ」と呼ばれる職種。正式名称は介護支援専門員で、カタカナ表記ではケアマネジャーと書きます(ケアマネージャーの表記は間違いですのでご注意を)。
私が特殊だなと思う点は、介護サービスを選ぶときに相談役・調整役としてケアマネが間に入ってくれること。しかも利用者の負担は0円。すべて介護保険制度でまかなってもらえるのです(2017年現在)。なんて親切な存在なのでしょうか。海外旅行のツアーコンダクターが無料で雇えるようなものです。
ケアマネは、介護保険を利用するときの専属コーディネイター
厚生労働省の定義によると、ケアマネとは「要介護者や要支援者の人の相談や心身の状況に応じるとともに、サービス(訪問介護、デイサービスなど)を受けられるようにケアプラン(介護サービス等の提供についての計画)の作成や市町村・サービス事業者・施設等との連絡調整を行う者」とされています。
国からすれば「はじめての介護保険でも、ケアマネという専属コーディネイターがつきますので、安心してご利用くださいね」ということ。はじめての海外旅行でもツアコンが現地を案内するので安心してくださいね、とほぼ一緒です。その背景には介護保険制度が2000年にスタートしたときに、適切な制度活用を促すためにケアマネの職種をつくった経緯があります。
ではケアマネとは、いつ、どこで出会うのでしょうか。基本的には介護認定の申請を行って認定調査の結果、要支援1・2もしくは要介護1~5のいずれかの認定が下りたときです。仮に要支援1の認定が下りたとしましょう。そのときに担当してくれるのは、お住まいの地域の地域包括支援センターのケアマネです(在宅介護支援センターの場合も)。仮に要介護1の認定が下りたとすれば、今度は居宅介護支援事業所のケアマネが担当することになります。そうなんです、介護度の重さによってケアマネが変わるのです。
介護保険制度は「予防」と「介護」で分かれている
私が地域包括支援センターで受ける相談のなかに「介護認定が要支援から要介護になったら、どうしてケアマネさんが変わるんですか?」というものがあります。はじめて認定を受けたときから親身に相談にのってくれたケアマネを信頼していたのに、より重たい要介護になって新しい担当者に変わってしまったら、相性が合わない。要支援のときのケアマネに戻してもらえないか、というわけです。
結論から言えば、原則できません。介護保険制度のなかで、要支援は「予防給付」、要介護は「介護給付」に分かれており、それぞれケアプランを作成する担当が異なることになっているからです。さらにいえば、要支援の予防給付のケアプランを作成しているのは、ケアマネの資格をもたない地域包括支援センターの専門職の場合もあります。
要支援2から要介護1になって、その後回復して要支援2に戻った、というケースになれば元の担当者に戻る可能性もありますが、どちらにせよ介護認定が要支援なのか要介護なのかで、利用者にとって大切なパートナーであるケアマネが変わってしまう現在の介護保険制度は、なんとも不思議な設計になっているなぁ、と思う次第です。
※小規模多機能など一部の介護サービスでは、要支援・要介護の違いでケアマネが変わらないこともあります。
次回は「ケアマネとの初回ミーティングで何を話すといいのか」をテーマにしたいと思います。
取材・文/藤井大輔
リクルート社のフリーマガジン『R25』元編集長。R25世代はもちろん、その他の世代からも爆発的な支持を受ける。2013年にリクルートを退職し、現在は地元富山で高齢者福祉事業を営みながら、地域包括支援センター所長を務める。主な著書に『「R25」のつくりかた』(日本経済新聞出版社)