同世代で資産運用をうまくやっているヤツはどんなことをしているのか……。30代後半、会社員のSさんは30歳で結婚したとき、結婚資金を使い果たして資産はまさにゼロ。ところが、ここから10年足らずで金融資産は3000万円超。東京の人気エリアに立つ7000万円台の高級マンションも購入という、なんとも、うらやましい状態にいます。
Sさんに一体、何が起きたのか。全6回にわたってお届けする、Sさんが「こっそりうまくやっている」マネー運用術、今回は第2回です。
「(金)オーシャンズを」を最初から読む投資のタネ銭が手に入ったときに始めたのが、アメリカ株
人のせいにするな、その株がなぜ上がると思ったのかを紙に書いてトイレに貼れ、という株ブログのメッセージになぜか強く惹かれたというSさん。
「要するに、株をやったり資産を運用したりするのは、単に儲かる儲からないというだけじゃなくて、生き方そのものだ、ということです。自分の頭で考えて、自分でリスクを取る。自分を試すことを、ちゃんと楽しむということです」
そんなSさんに、思わぬ形で自分を試すチャンスがやってきます。当時、ベンチャーに勤務していたSさんのもとに、過去の未払残業代が支払われることになったのです。その額、数百万円。貯金ゼロだったSさんに、とうとう投資のタネ銭が手に入ったのでした。そこでSさんが始めたのが、アメリカ株でした。
「株ブログで学んだのは、株はストーリーで考えろ、ということでした。“ストーリーをプレーせよ”と。株や金融って、必ずストーリーになっているんですよ。アメリカ株にしたのは、ニューヨーク証券取引所って、世界中のいろんな国の会社の銘柄が買えるからです。中国、南アフリカ、ブラジル、オーストラリア……。そうすると、ストーリーが世界規模で考えられるじゃないですか」
当時は、中国やブラジルのインフラ投資が激しかった頃。“風が吹けば桶屋が儲かる”方式で考えると、株の上昇が面白いほどよく見えたそうです。例えば、鉱山会社、鉄鋼会社、プラント会社……。
「興味深かったのは、工事現場が増えて男が何万人も集まるので、ジェントルマンズクラブの株が上がったりしていて。また鉄鉱石を運ぶ運転手の賃金が上がって求人難になり、いいトラックがないと採用ができない、とトラックの会社の株が上がったり」
金の需要が上がるときに、延べ棒に投資するのはお洒落じゃない
Sさんが選んだのは、これはわかりやすいぞ、しかもあまり人はやらないぞ、と腹落ちしたストーリーでした。中国人やインド人の富裕層が増える。彼らは金が大好きなので金の需要が上がり、金鉱山会社が儲かるのではないか、というストーリーでした。
「“金ストーリーのピュアプレイ”と呼んでいました(笑)。金の延べ棒に投資する方法もありますが、ちょっとお洒落じゃない(笑)。株のように大きく跳ね上がることもないじゃないですか」
金を扱う鉱山会社は実はたくさんあります。その中から選んだのが、金の売上比率が高い南アフリカの会社でした。初めての投資。額は50万円。ところが、いきなりとんでもない事態に見舞われます。
「ちょっと記憶があいまいな部分があるんで金額はざっくりですが、落盤事故があって操業不能になっちゃったんです。ストーリーは理論的には正しいんだけど、見落としていたリスクもたくさんあるんだな、ということを知りました」
Sさんはその後、新たに50万円ほどを出して、ファイザー、フィリップモリスなどアメリカの超優良銘柄を少しずつ買っては売り、買っては売り、を繰り返します。そして、また100万円の元手に戻すと、全体の2割ほどでリスクの高い投資に挑むことにしました。例えば、モンゴルの銅山です。
「これはバクチでしたね。20ドルで買った株だったんですが、採掘許可が取り消されたというニュースが流れ、1ドルまで暴落。でも、大底で売るのはダサイと思って。そうしたら半年で7ドルまで上がりました。7倍ですよ(笑)。最初から見れば半値以下ですが。高い授業料でした。でも、長期で保有したので、一皮むけた感じがしましたね(笑)」
アメリカ株のいいところは、昼間、本業の仕事に打ち込めること
合計100万円の中で、細かく売り買いしていく。それが少しずつ少しずつ増えていきました。
「アメリカ株のいいところは、サマータイムだと日本時間の夜10時30分に場が開くことです。だから、サラリーマン向けなんですよ。会社から戻って、今日はどうしようかな、と考えて夜、細かな取引ができる。そして後は、朝までサクっと寝るんです」
日本株を買うと昼間、値が動きますから、ドキドキして仕事にならないとはよく聞く話です。トイレでスマホから指示を出し続ける、なんて話も。しかし、これでは仕事に差し支えます。
「夜、戻ってから考えられるのは良かったですね。アメリカ株は大正解だったと思います」
そして、Sさんの“遊んだ2割”から大化け株と出会うことになるのです。
(第3回に続く)
取材・文/上阪 徹
1966年、兵庫県生まれ。アパレルメーカーのワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスに。経営、金融、ベンチャー、就職などをテーマに、雑誌や書籍などで幅広く執筆やインタビューを手がける。著書に『成城石井はなぜ安くないのに選ばれるのか?』(あさ出版)、『僕がグーグルで成長できた理由』(日本経済新聞出版)、『職業、ブックライター。』(講談社)、『成功者3000人の言葉』(飛鳥新社)、『リブセンス』(日経BP)など。