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2017.04.22

ライフ

褒められて伸びる部下と、褒められて気分が良くなる上司に挟まれ、膝が伸びるタイプ。


4月に入ると街が華やかになる。
新社会人や新大学生に新高校生などフレッシュな人たちが加わるためだ。
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新しいスーツや学生服の新顔が、期待や不安をにじませながら、慣れない通勤ラッシュの洗礼を受けている姿、先輩に連れられ、営業先を回りながら、慣れない手つきで名刺を渡している姿、スクランブル交差点に圧倒されている姿などに、私は春を感じる。
桜も素敵だが、この光景もまた春らしい。
私は、そんな街の光景を眺めながら街角で友人を待っていた。
すると、同じように人を待っている2人のサラリーマンの会話が耳に入ってくる。
30代後半、働き盛りのサラリーマンが、新入社員の愚痴をこぼしている。
これもまた、春の風物詩なのかもしれない。
「褒められて伸びるタイプばっかりだよな〜」
「そうそう。うちの新人もそれ言ってたわ〜。つまり怒られてすぐ心折れるタイプね」
「逆に言うと、伸びる前に褒められようとするタイプね」
「褒めて調子に乗るタイプってこともある」
「調子に乗ってヘマして怒られるタイプだな」
「そうして、いつか俺らみたいになるタイプ」
無益な言葉遊びが止まらなくなっている。
日本人には、下ネタと愚痴はうまいことを言い合ってしまうというクセがあるようだ。
「俺たちはどんなタイプだ?」
「お前は、酔うとどこでも寝るタイプだろ?」
「何だよそれ。じゃあお前は、酔って寝た俺を家まで送るタイプだな。」
平和だ。
身内の盛り上がり方の典型のような会話である。
他人が聞いても何も面白くない。
そう思い、聞く耳を塞ごうとした瞬間、不意にこんな言葉が飛び出した。
「俺は、褒められて伸びる部下と、褒められて気分が良くなる上司に挟まれ、膝が伸びるタイプだな。」
膝が伸びるタイプ? どういうことだろう?
一見意味がわからないが、何やら含蓄のありそうな言葉である。
すると「どういう意味だ?」と私の心とリンクした質問が飛び出した。
どうやら、相手にも伝わらなかったみたいだ。
「この前、新入社員の歓迎会でさ〜。褒められると伸びる新入社員と、褒められると気分が良くなる部長とに挟まれて、ずっと俺がお酌してたんだよね〜。新人がやるはずも無いし… …で、膝が伸びっぱなし」
なるほど。
そのときの様を言い表していたのだ。
使いどころは限定されるが、これもまた名言である。
世代間の狭間にいる、彼らの現状を見事に紡ぎだしている。
そして、褒められたがっているのは部下だけではなく、上司もそうであるという風刺も織り交ぜた、サラリーマン川柳のような名言である。
褒められたがりに囲まれ、孤軍奮闘する彼ら。
彼らが褒められることは無いのかもしれない。しかし本当の意味で伸びているのは彼らである。
伸びたからこそ、そのポジションが必要で、それをすることがその場を円滑にする術だということを理解している。
これを乗り越えれば、褒められて気分が良くなるところに行ける。
そうなりたいかどうかはさておき、ここを通過しないと上に行けないことをわかっているのだ。
褒められずとも伸びる。それが働き盛りの40代前後の宿命なのかもしれない。
良いタイプである。
こういうタイプが、今の社会の原動力なのかもしれない。
ちなみに私は、街角で小耳に挟んだ名言を少し盛って話すタイプである。
文:ペル・ワジャフ准教授




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