成熟した男性は、仕事人、家庭人、地域人といった3つの顔を持つという。しかし、自分なりの美意識を持った37.5歳からのオーシャンズ世代なら、ここに「趣味人」としての顔を付け加えたい。自分らしい趣味を持つことでハレとケを使い分ければ、仕事にも家庭にも、きっと良い影響を与えてくれるはず。オッサンだからと尻込みすることなかれ。人生をちょっと潤わせてくれる「新しいコト」に挑戦してみよう!
初めてのルアーフィッシングの舞台は『奈良子釣りセンター』格好いい大人の趣味を得るべく目を付けた「ルアーフィッシング」。第1回では、最低限の知識をつけるために、元釣り雑誌の編集長で現在は旅とアウトドア製品のブランド『ジェットセッター』を展開している外遊びの達人、水口謙二さんに教えを乞うた。第2回では、いよいよ実際の釣りに挑戦。座学と実践は異なるということで、今回も水口さんに手取り足取りご指導をいただくことに。向かうは、山梨県大月市七保町の『奈良子釣りセンター』だ。
>>第1回の記事はこちらこの時期の大月市の天気は快晴で最低気温の平均は−2度。事前に水口さんから「トップスはセーターまたはフリースにダウンジャケット、ボトムはタイツなどのベースレイヤーを着込んだ長ズボン、足元は暖かい靴下にトレッキングシューズまたはスニーカー、あとはニット帽。これくらい着込んでいないと寒いですよ」とアドバイスをいただいていたので、防寒対策はバッチリ。ただし、この日は12月には珍しい陽気の日で、最高気温は16度、最低気温は5度と、ポカポカ陽気。しかし、この暖かさが後に重要な意味をなしてくる。
大月ICを降りて20分程度、8:00を少し回った頃に『奈良子釣りセンター』に到着。例年よりも暖かいとはいえ、山奥の渓流だけに、やはり冷え込んでいる。とはいえ、キーンと引き締まった空気に澄んだ青空、渓流から聞こえる川のせせらぎ以外には音が聞こえない静寂は、なんとも気持ちがいい。
にこやかに出迎えてくれたのは、管理人の渡邉さん。わかりやすく、『奈良子釣りセンター』の概要を説明していただいた。渡邉さんによると、ここで釣れる魚は、ニジマス、ヤマメ、アマゴ、イワナの四種類。エサ釣り場とルアーフライ釣り場に分かれており、ルアーフライ釣り場は、自然渓流エリア約700m、流水エリア約150m、ならご池約600㎡、やまめ池約400㎡に分かれている。まずは、ならご池で基本的な動作などを教えてもらい、その後、自然渓流エリアで釣りを開始することとなった。
スプーンやワーム。さまざまなルアーで魚を騙して釣り上げる今回は釣り竿もリールもルアーも水口さんセレクト。リールとは、釣り竿に付けた糸を巻くための器具のこと。ルアーとはいわゆる疑似餌のことで、小魚や虫を擬したものが一般的だが、それ以外にも魚が興味を示す色や形、動きが工夫されたものもあり、その数はまさに無数。魚の種類とその魚が生息している深度、その日の水温などに合わせてセレクトする。ルアー選びも楽しみのひとつなのだが、初心者にはハードルが高いので、今回は水口さんにお任せだ。
最初に使ったルアーは、スプーン状に曲がった金属片に針を付けた「スプーン」というタイプ。なんでも、ルアーの成り立ちは、たまたま川に落としたスプーンに魚が集まったことに端を発するという。いわば、「スプーン」はルアーの原点である。
まずは、ルアーの「キャスティング」から教わる。キャスティングとはルアーを投げることだか、なんだか格好いい響き。趣味自慢のときに「キャスティングがさ〜」と声に出して話したくなる。しかし、実際にやってみた初キャスティングは……格好悪かった。水口さんに、糸を離すタイミングなど手取り足取り教えてもらったのだが、最初は足元にポチャン。実は、渓流釣りで使うルアーは軽いので、遠くへ飛ばすのは意外と難しいのだとか。とはいえ、水口さんが投げると、ヒュンという風切り音と共に、狙った場所へと飛んでいく。素人から見ても、無駄がないスマートな所作。目指すはアレだな。
数回続けるうちに、狙ったところにドンピシャとまではいかないまでも、ある程度は投げられるようになった。もちろん、教え方とセレクトしてくれた道具がいいのだが、そこはみんな優しい大人。水口さんも渡邉さんも「筋がいい」「上手い」と褒めてくれる。正直、気持ちいい。 アラフォーにもなると、部下や後輩、子どもを褒めることはあっても、褒められることは意外に少ない。また、誰かに教えを乞う機会も減ってきて、わからないこと、できないことをスルーしてしまうことも多くなる。しかし、これから始める趣味であれば、上達して褒められると素直に喜ぶことができるし、アドバイスも真摯に聞くことができる。水口さんや渡邉さんに褒められ、アドバイスをされていると、新人時代を思い出して、なんだかくすぐったい気持ちになったが、悪くない感覚だ。
開始して約30分、キャスティングはある程度上達してきたが、肝心の魚はまったく釣れない。釣れないときの言い訳の定番として「釣れないときは魚が考える時間を与えてくれたと思えばいい」とよく言われるものだが、それは海釣りの話。ルアーフィッシングは、ただ当たりを待つのではなく、常にリールを巻いてルアーを動かすことで、疑似餌を本物に見せかけて、魚に食わせなくてはいけない。言わば、ボーッとしている時間などないのだ。
水口さんに、「もう少しゆっくり」とか「もう気持ち早く動かしましょう」などとアドバイスを受けながら、ひたすらヒットを待つ。途中、ルアーの種類をスプーンからミミズのような形状のワームタイプに交換したりしてみたが、やはり喰いつきは悪い。ここで渡邉さんから、衝撃のひと言。「水温が低いから、魚が動けないんだな。やっぱり、冬の朝はコンディションが悪いね」。内心、「マジかよ」と思いつつも、「俺の腕が悪いわけではないんだ」と少しホッとした気持ち。しかし、その隣では水口さんや同行してくれた編集担当者がガンガン釣っている。そこは、気にしないようにしよう。
じっと待って、動くときには大胆にスピーディーに「キャスティングも上達したし、そろそろ渓流デビューしますか」と水口さん。いまだ、ならご池では1匹も釣れていないが、元来の目的は渓流でのルアーフィッシング。望むところだ。渡邉さんが「今日は、ニジマス、ヤマメ、アマゴ、イワナが釣れるので、グランドスラムを目指しましょう。特に、ヤマメとアマゴ、イワナは警戒心が強くて、釣るのが難しいので頑張って」と発破をかける。 奈良子川の渓流は、驚くほどに澄んでおり、肉眼でも魚の群れが見てとれた。なんでも、300匹はいるらしい。これならば、簡単に釣れるのではないかと期待が膨らむ。
ドキドキしながら、最初のキャスティング。すると、いきなり来た!! 釣り竿を握る手にビクビクッと魚が暴れる震動が伝わる。「竿を立てて巻いて!」、水口さんの声が聞こえる。急いでリールを巻くが、途中で急に手応えが軽くなるのがわかった。「バレましたね、残念」と渡邉さん。ルアーの針には返しが付いていないので、簡単に外れてしまう。釣り竿を立てるタイミングも遅かったようだ。「合わせるチャンスは一瞬。タイミングがズレると釣り上げられません。じっと待って、動くときには大胆にスピーディーに」と水口さん。釣りの極意だが、人生や仕事にも通じるような含蓄あるひと言である。 一度ヒットしたら、俄然やる気が出てきた。二度、三度とキャストを続けると、魚がルアーをついばんでいるのがわかる。上達すれば、ついばんだタイミングで釣り竿を上げ、引っかけて釣り上げることもできるようだが、初心者には無理な話。がっつりと食い付くのを待つ。すると、何度目かのキャストで再びヒット。今回はサッと釣り竿を立ててリールを巻く。水口さんが魚をすくうタモ網を準備する。ついに、初めての1匹を釣り上げた! 釣果は30cm程度のニジマス。結構、大きいのでは? と思ったが、渡邉さんによると、ごく普通のサイズとのこと。とはいえ、初めて釣り上げたニジマスは、その名の通り虹のようにキラキラと七色に光っていてかなりキレイだ。
釣った魚は食べてもいいが、キャッチアンドリリースをする人も多いという。確かに、タモ網の中で目が合ってしまったら、情が湧いてしまう。「釣られてくれてありがとう」の気持ちを込めてリリースすることにした。「手を川の水で冷やしたあとにすぐに針を外して、そっと返してあげて下さい」と水口さん。魚は変温動物なので体温が低く、人間の体温で触れるとそれだけで体力の消耗になるという。水口さんは、「リリースするのもいいですけど、もちろん、食べる人もいます。自分が釣った魚を焚き火で直火焼きして食べるのは抜群。命を食するという意味では、子どもの情操教育にもなります」と教えてくれた。では、次に釣れた魚は、ありがたく頂くことにしよう。 そこからは、面白いように釣れ始める。これは、才能アリなのでは? と思ったが、実はカラクリがあった。ひとつは気温。この日は12月には珍しい陽気で、最高気温は16℃。水温も上がったことで、魚の動きが活発になったのだ。もうひとつはルアー。渡邉さんが10年間かけて開発した「最終兵器1号」なるルアーを使うことで、入れ食い状態。どうやら、才能ではなかったようだ。しかし、逆にいえば、初心者でもルアーの選び方によっては、こんなに簡単に釣れるということ。「ルアーフィッシング」は、趣味として意外にハードルが低いのかもしれない。
釣れることでより興が乗っていると、水口さんに「もう少し上流に行ってみましょうか」と誘われた。渓流を歩くと、美しい風景や川のせせらぎ、マイナスイオンのお陰などで非常に爽快な気分。途中、至近距離でアオサギにも遭遇して感動したが、釣り場にとっては、タダで魚を獲っていく大泥棒なのだという。 上流には大物が多かったが、大きく育っているということは、釣られずに成長し続けた証。当然、初心者ごときに釣られることはなかった。しかし、全体を通じてみれば、初めてとは思えないほどの釣果もあったし、ルアーを動かしながら魚をおびき寄せる動作は、まさに魚との駆け引きといった感覚でこれまでにない体験もできた。これはハマりそうだ。
上流でもひとしきり釣りを楽しんだあとは、下流へと戻り、もうひとつのお楽しみであるBBQの準備に取りかかる。
今回の取材では、
・管理釣り場でいいルアーを使えば、初心者でも結構釣ることができる。
・寒すぎると魚は動かない。人間の防寒対策も大事!
・魚がヒットしてブルッと震える感覚はやみつきになる。
・釣った魚はキャッチアンドリリースが基本。でも、食べても美味しい。
・渓流釣りは釣れなくても、自然がとっても気持ちいい。
ということがわかった。初めての釣り体験にしては、たくさんヒットしたし、大満足だ。 次回はBBQに挑戦。釣りだけでなく、釣りを含めたアウトドアを楽しむことを趣味にするのだ。男心をくすぐるアウトドアギアを使って、豪快な料理を満喫するぞ。乞うご期待。
//////////////// ■ スポット情報
奈良子釣りセンター
住所:〒409-0625 山梨県大月市七保町奈良子10
電話:0554-24-7636
営業時間:6時30分~17時00分
http://www.narago.jp/ 冒険用品
住所:〒192-0154 東京都八王子市下恩方町1817-2
電話:042-659-0262
営業時間:11時00分~19時00分(火曜日定休)
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