ベールを脱いだパテック フィリップ三部作。金・青・黒にまつわる3つの物語
「パテック フィリップがバーゼルワールドから撤退」という衝撃のニュースから数カ月。
「2020年の新作はいつ発表される?」という疑問に多くの噂が飛び交っていたが、先日の、新工場「PP6」の門出を祝う限定モデル「Ref.6007A」のリリースで、先の疑問は「ほかの新作も近々発表されるかも?」という期待に変わった。
それに応えるように7月14日、2020年の新作としてグランド・コンプリケーションが発表された。しかも3型同時に!
そのすべてが持っていた色にまつわるストーリーを追いかけよう。

金を纏った超王道
グランド・コンプリケーションの顔であり、カラトラバやノーチラスに匹敵するブランドのアイコンモデルのひとつが、永久カレンダー搭載クロノグラフ。
その歩みはパテック フィリップの歴史の一部だと言っても過言でなく、始まりは1941年初出の「Ref.1518」まで遡る。これまで何度かモデルチェンジを繰り返しているが、2011年に登場した「Ref.5270」は、その文脈を継ぐ極めて重要なモデルだ。

そこに新たに加わったのは、「Ref.5270」では初となるイエローゴールドのケースを纏った一本。シルバー・オパーリン文字盤とのコンビネーションはパテック フィリップの最も王道なスタイルで、普遍的な魅力をたたえている。

もちろん、パテック フィリップ初の自社開発・製造による永久カレンダー搭載クロノグラフ専用ムーブメント「Cal.CH 29-535 PS Q」も健在である。
青を纏ったクロノグラフの最高峰
複雑機構の花形であるクロノグラフの製造は、いつの時代も変わらずパテック フィリップの技術開発者たちの創作意欲を掻き立てる特別な存在だ。

センターに備えた2本のクロノグラフ秒針により、2つのラップタイムを同時に計測、記録できるスプリット秒針クロノグラフは、ミニット・リピーター、トゥールビヨンと匹敵するグランド・コンプリケーションの最上位モデルにあたる。
とりわけムーブメントの開発は困難を極める。

1923年から腕時計用のスプリット秒針クロノグラフを製造しているパテック フィリップでさえ、2005年に発表された「Ref.5959P」で初めて自社ムーブメント搭載に成功したのだから、難易度の高さは言わずもがな、である。

「Ref.5370P」では5年ぶりの新作となるこちらは、パテック フィリップの伝統から生み出されたブルーの本七宝文字盤を採用し、アリゲーターのベルトもブルーでまとめた。
どこかカジュアルな雰囲気を漂わせ、傑作に新たな側面を加えている。
黒を纏ったミニット・リピーター
ただでさえ気が遠くなるような工程を経て完成にいたるミニット・リピーターだが、さも当たり前のように複数の機構と組み合わせてしまうパテック フィリップの技術はもはや神業。
昨年行われた「ウォッチアート・グランド・エグジビジョン・シンガポール 2019」の記念として12本限定で製作された「Ref.5303」は、ミニット・リピーターにトゥールビヨンと2つの超複雑機構を搭載。パテック フィリップでは初となる文字盤側からチャイム機構を鑑賞できるタイムピースとして話題を集めた。

この度、現行コレクションに迎えられた「Ref.5303」は、前回の鮮やかな赤で彩られていたアワーサークルと打って変わり、ブラック塗装のサファイヤクリスタルを採用したアワーサークルにすることで落ち着いた印象に。

もうひとつの特筆すべき仕様の変更点は、Cal.R TO 27 PSをより美しく眺められるように、ムーブメントの一部を切り抜くことで形状を整えたことにある。表と裏から、2つの超複雑機構を望める至福の時間を届けてくれるのだ。

ちなみに、パテック フィリップ社長のティエリー・スターンが音色をはじめ、納品前に自らミニット・リピーターの品質を確認する作業は、その世界ではよく知られた逸話である。そのお眼鏡に叶った一本は、ため息級の仕上がりだ。
壮大なスケールで贈るパテック フィリップ渾身のグランド・コンプリケーション三部作。深遠なる複雑機構の世界は、機械式時計を巡る旅に終わりがないことを教えてくれる。
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パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター
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戸叶庸之=編集・文