時計に込められた作り手の思いは、100本あれば100通りあるだろう。デザイン、素材、機構、ストーリー……。小さなプロダクトに詰まった豊かな個性。それを噛み締めながら愛用してみると、時計の新たな一面に出会えるかもしれない。
HERMÈS エルメス
スリム ドゥ エルメス ルゥール・アンパシアント
喜びの到来を告げる時計にメゾンのロマンティックな感性が宿る
優美な意匠もさることながら、真のハイライトは別にある。さりげなく配された、ふたつのインダイヤルが唱える魔法の呪文。4時位置のサブダイヤルで任意の時刻を設定すると、設定時刻の60分前に7時位置のレトログラード針がカウントダウンを始める。
そして設定した時刻になると、ただ1度だけ鳴る美しい鐘の静音が着用者に“時”の到来を告げるのだ。待ち焦がれる時間すら詩的に演出する機械式時計は、実にエルメスらしいロマンティックな手法で時を表現している。
H.MOSER & CIE. H.モーザー
エンデバー・センターセコンド オートマティック
コンセプト “ブルーホライズン”
海と空、そして水平線を潔く表現した純粋なブルー
“フュメ(=仏語で煙の意)”と呼ばれるグラデーション、その美しさを際立たせるために、あえてインデックスやブランドロゴを省く。それは、作り手の品質に対する確かな自信の表れでもある。新色となるブルーホライズンでは、大海原と青い空、そしてその境にある水平線が織りなす繊細な色彩を表現。自社製ヒゲゼンマイを2重にした特別仕様のムーブメントを搭載する。
RADO ラドー
トゥルー シンライン ネイチャー コレクション
異なるグリーンの色みがブランドの矜持を示す
ハイテクセラミックスを自在に操るラドーが、自慢のカラーパレットをさらに深化させた1本。ケースとブレスレットは深みのあるグリーンセラミックスで統一し、ダイヤルには葉脈の構造をプリントしたMOPを採用。異なるグリーンが作る繊細な表情を、ゴールドの針とインデックスが控えめに彩る。先進素材と自然の色彩の融合を楽しもう。
EDOX エドックス
クロノラリー
ディテールを突き詰めてとことんレース仕様に
手に汗握るスリルやエンジン音、ガソリンの匂い……。本作はザウバーF1チームとパートナーシップを結ぶエドックスが、モータースポーツの世界観を表現したクロノグラフ。ホイールとタイヤを模したケースに、タイヤパターンのラバーストラップを装備。そして2時位置のプッシュボタンはグローブ着用中での操作性を考慮して大きく設計されるなど、随所にそのこだわりが見て取れる。
SINN ジン
U2. J-SBF
機能と意匠の両面で腕元から熱烈サポート
ドイツの潜水艦「Uボート」に使われる鋼鉄をケースに採用し、2000mという驚異の防水性能を誇る「Uシリーズ」から、日本の海上自衛隊の潜水艦隊に向けた1本が登場した。6時位置のドルフィンマークと、9時位置の「JMSDF(海上自衛隊)」「SBF(潜水艦隊)」がその証し。黒地に赤は深い海で目立たない配色であり、機能とデザインの両面で効果的だ。
TIRET ティレット
AC スケルトン
着せ替え可能なベゼル&ストラップがうれしい
色使いを抑えたスタイリッシュで高級感あるスケルトンウォッチ。その真骨頂は、“着せ替え”にある。回して着脱可能なベゼルと、ラグ裏のツメを操作して簡単に取り外せるストラップ機能を備えているのだ。別売りのベゼルとストラップは豊富に揃うので、TPOや気分によって着替えられる。ジュエラーを出自とするNYのウォッチメーカーらしい1本だ。
※本文中における素材の略称は以下のとおり。
SS=ステンレススチール、K18=18金、PG=ピンクゴールド、WG=ホワイトゴールド
柴田 充、髙村将司、中村英俊、戸叶庸之=文