2021.07.22
LIFE STYLE

’90年代ストリートが生んだアーティスト、HAROSHIの作品に共感する理由

東京のストリートが生んだアーティスト、HAROSHI(ハロシ)。

スケートボードの廃材で生み出す作品は唯一無二。海外で人気に火が点き、ニューヨークを始め世界各地で個展を成功させてきた。現在は原宿のアートギャラリー「ナンヅカアンダーグラウンド」で個展を開催している。

スケボーの廃材を使ったアート作品で世界的高評価を得るアーティスト、HAROSHIさん。

作品に触れて実感するのは、「同じ時代に生まれ育った人なら、彼の作品に共感を覚えずにはいられない」ということだ。

今回の個展の開催に合わせ、東京・葛飾区に構えるHAROSHIさんのアトリエを訪問。膨大な量のスケボーが山積みになったその場所で、オーシャンズ世代を代表するアーティストの飾らない素顔を見た。

スケボーとの出合い、クラフトとの出合い

HAROSHIさんの深いスケボー愛は、自身のアトリエにスケボーランプを作ってしまうことからも見て取れる。

「中学のときに隣の学校の不良グループがよくスケボーを持っていたんですよ。『スイサイダル・テンデンシーズ』が流行っていた影響もあって、バンダナを目の上まで巻くような不良たちだったんですけど、そこで『スケボーって面白いのかな』って興味を持ったんです」。

地元・駒沢の、実に’90年代らしいストリートの一角で多感な時期を過ごしたHAROSHIさん。彼が中学2年生くらいからスケボーカルチャーにのめり込んでいったのも、今思えば自然な流れだった。

「スケボー仲間はみるみるうちに不良になっていくんですけど、僕は部活も真面目にやっていて、高校もスポーツ推薦で入ったんです。でも、スケボーで怪我しちゃって、入学式も松葉杖で。それで学校側から『学校を辞めるか、スケボーを辞めるか』と突きつけられ、部活を取りました」。

スケボーから離れ、部活に打ち込む日々を送っていたHAROSHIさんだが、次第に部活後は原宿に寄って街を散策する日々を送るようになる。

そんなある日、大切にしていたゴローズの財布を盗まれてしまう事件が発生。実はこれが後のアーティスト・HAROSHIを生むキッカケとなるのだが、このときはまだ知る由もない。

「2万円もする財布だったからすごくショックで、もう自分で作ることにしたんです。東急ハンズで革と糸を買って、自分で縫いました。でも、せっかく作ったのに、平和島のジュエリーショップの店長に見せたら『下手くそ! 俺が教えてやる!』って(笑)。で、素直に通って学ぶことになったんです」。

祖父の影響で、もともとモノづくりの素養があったHAROSHIさんは、そこで腕を磨き、友人の財布や手帳、ジュエリーを作ったり、原宿のショップに卸したりするようになる。

代々木公園のフリマでも出品していたそうなので、当時の彼に会っている人もいるかもしれない。

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運命を決めた妻のひと言「スケボーでジュエリーを作れば?」

スケボーの廃材を重ねて作り出したHAROSHIさんの彫刻作品。

部活を引退し、再びスケボーに熱中していったHAROSHIさん。当然、ストリートにはグラフィティライターも大勢いたが、意外にも自身がグラフィティの世界に足を踏み入れることはなかった。

「やっぱり、当時のストリートやヒップホップカルチャーはバイオレンスが身近にあって、それに対する拒否感がありました。僕は純粋にスケボーが楽しみたかっただけなんです」。

やがてアートの世界のド真ん中に身を置くHAROSHIさんだが、当時はグラフィティどころか、アートそのものと無縁だったといっていい。

では、アーティストとしてのルーツはどこにある?

「僕自身、もともとアーティストではなくクラフトマンだと思っていて。高校を卒業してジュエリーの勉強もしたし、最初に就職したのはジュエリー関係の会社で、“ジュエリークラフトマン”というプライドがあったんです。でも、どうしてもその仕事は“量産”なんですね。何十個も同じのを作らないといけないことが、本当に自分がやるべきことなのか? と思うようになっていったんです」。

アトリエには、作品に使われるスケボーの廃材がズラリ。その数、1000枚ではきかない。

「ひとつひとつ違うものを作ったほうが、絶対にいい」――。

そう考えたHAROSHIさんは、木材を使ったジュエリーの製作を始める。そのとき、当時の恋人(現在の妻)が、自宅に山積みになっていたスケボーを見ながら言った「それでジュエリーを作ればいいんじゃない?」のひと言が、HAROSHIさんのその後の作風を決定づけた。

「でも、実際に作ってみたらあまり売れなかったので、ジュエリーをよく見せるために、立体作品や壁掛けなんかを作っていたら、『それがほしい』って言われるようになって、『いいじゃん。個展しないか』って声をかけてもらうようになったんです」。

そしてオリジナル作品は世界へ羽ばたいた

スケボーの廃材は重ねて使いやすいよう細かく裁断し、すべて平らにならしていく。

こうして、徐々に“クラフト”が“アート”と見做されていったHAROSHIさんだったが、手応えはほとんど感じられなかったそうだ。

「誰も相手にしてくれなかったし、周りをよく見ると、ヘリングやバスキアのように世界で評価されているストリートのアーティストが、日本にはひとりもいないことに気付きました」と当時を振り返る。

「そもそも日本の土壌で勝負していても、一生彼らのようにはなれない」と考えに考えて出した結論は、「海外のギャラリーで作品を発表して、世界中の人に見てもらわなくてはダメだ」というものだった。

知人のツテを辿ったHAROSHIさんは、ニューヨークの有名なギャラリストとの接触に成功。すぐに才能を見い出され、アーティストとして契約も勝ち取った。2009年のことだ。

翌年にはニューヨークで個展も開催。ロサンゼルスやロンドンも巡回し、世界に一躍その名を轟かせる。当時のナイキのCEO、マーク・パーカーから直々に「ダンクの彫刻をスケボーで作ってほしい」と依頼を受けたこともあった。

「しばらくはそこのギャラリーをベースにした活動は続きましたが、そこでの6年間でみんなが作品に飽きていくのも感じたし、その間にストリートアートのブームが去ったなんて言われていました。最後には所属していたギャラリーも破産し、作品の発表の場を失って、『そろそろ本当の自分自身の作品を作らないとダメだな』って意識し直しましたね」。

それまではスニーカーや動物など「すでに在るモノ」を模刻することが多かったが、その後はナンヅカアンダーグラウンドの南塚真史氏のアドバイスも得て、本当の意味でのオリジナル作品を制作。

「自分が『カッコいい!』と思う人形型の像を作ろうと思って、まずは『GUZO』っていうシリーズを作りました」。

ナンヅカアンダーグラウンドで展示中の「GUZO」シリーズ。

「GUZO」は広く注目を集め、その評判は再び海外にまで飛び火。さらに、使い終わったスケートデッキを並べ直し、スケーターたちの個人史とスケートボードカルチャーの総体を絵画として構成したモザイク平面作品「Mosh Pit」など、精力的にオリジナル作品を制作し、発表した。

その作品の一部は、現在開催中の個展「I VERSUS I」で展示されている。

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「比較対象は、絶対に自分なんです」

スケーターひとりひとりの個人史と、スケートボードカルチャーの総体を絵画として構成したモザイク平面作品「Mosh Pit」を製作中。

最後に、個展のタイトルを「I VERSUS I」と名づけた理由をうかがった。

「(ハードコアパンク・バンドの)ココバットのアルバムから取っていますが、個展のタイトルをどうしようかと考えたとき、作品のタイトルにしていたこともあったので、すぐにこの言葉が浮かびました」。

個展で展示中の作品「I VERSUS I」。そのタイトルは、そのまま個展のタイトルにもなった。

そこに込めた思いはこうだ。

「去年は個人的に数々の苦難に見舞われました。千葉のスケートパークに創る予定だった3メートル大の作品もキャンセルになり、制作費は僕たちの全被りになった。緊急事態宣言で個展はキャンセルで、HUFのLAのお店はBLMの暴動で襲撃されて、彫刻作品も破壊されました。友達のキース・ハフナゲル(HUFの創設者)も病気で死んじゃいました」。

さらに、年末にはスケボーで骨折。とにかくいろんな意味で「心がキツかった」と話すが、「でも、考えてみれば、骨折以外は全部、自分の気持ちで解決する問題ばかりなんですよ」とHAROSHIさん。

コロナ禍の影響もあって、昨年以降、HAROSHIさんは例年では考えられないほど静かな環境で作品創りに没頭した。「今、何を創るべきか」という問題にも、改めて真剣に向き合った。

「Mosh Pit」は、役目を終えたスケートボードの傷ついた美しい姿にフォーカスした作品。個展でも展示されている。

「『良いものは高い』といいますが、『高いものは良い』と勘違いしている人が多いですよね。オークションの値段で、作品の価値を決めるなんて世の中はおかしい。安くて最高のものもあるし、クソみたいなのに高いものもある。

『君の作品はいくらで、誰の作品はいくらだった』とかいちいち報告してくる人もいますが、くだらないなと思ってます。誰かと比較して、お金がまるで戦闘力かのように語られるなんて、馬鹿げている。自分に向き合うべきは自分だけ。比較対象は、絶対に自分自身なんです。そんな意味も込めて、『I VERSUS I』と名付けました」。

’90年代のストリートから出発したアーティスト、HAROSHI。彼が「自分との戦い」と位置づけた個展は今、自身が青春を過ごした原宿の地で開催中。

葛飾区の工房からアートとして生まれ変わったスケボー作品は、初見でもどこか懐かしさと親しみやすさを感じ、きっと深いところで共感できるはずだ。

 

[イベント詳細]
HAROSHI「I VERSUS I」 
場所:ナンヅカ アンダーグラウンド

住所:東京都渋谷区神宮前3丁目 30-10
電話:03-5422-3877
営業:11:00〜19:00(月曜休業)
期間:〜8月8日(日)まで
※502ページに及ぶ作品集はコチラから。

清水健吾=写真

# HAROSHI# HUF# アート# スケボー
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